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京都文化博物館「古社寺保存法の時代」、奈良国立博物館「新たに修理された文化財」他鑑賞記

1月12日、約1ヶ月ぶりの展覧会鑑賞。

京都文化博物館
 古社寺保存法の時代
(1月5日~3月3日)

 明治時代における文化財保護の黎明を、近世末から近代初頭の古器旧物の把握、臨時全国宝物取調局による監査、古社寺保存法の成立と国宝指定、初期の国宝修理と、先般重要文化財に指定された京都附行政文書などから制度か形成され運用されていく動きを押さえつつ、流れを追って紹介する意欲的な展示。集古十種所収の色々威腹巻(京都府蔵)、森寛斎筆武田信玄蔵模本(京都府蔵、原本成慶院蔵)、美術院が手掛け額装で仕上げられた十六羅漢像(長寿寺蔵)、奈良美術院で記録された紀州新宮速玉神社神像図(奈良国立博物館蔵)、新納忠之助の調査手帳((公財)美術院蔵)などなど。図録あり(56ページ、1300円)。充実のコラム7本(執筆:安江範泰・中野慎之・地主智彦・横内裕人・森道彦)収載、必携。

奈良国立博物館
 特別陳列 おん祭と春日信仰の美術-特集 大宿所-
(12月11日~1月20日)

 恒例のおん祭展。今年は願主人(大和士)が参籠して精進潔斎した大宿所を紹介。春日若宮御祭礼絵巻中巻をながーく展示するなど絵巻を活用して行列の壮麗さを示す。春日曼荼羅、春日本迹曼荼羅、春日地蔵曼荼羅のほか、春日講本尊の春日鹿曼荼羅などずらり。図録あり(64ページ、1500円)。
 
 特集展示 新たに修理された文化財
(12月26日~1月20)日

近年修理を行った収蔵品とその修理内容を公開。絵画・彫刻・工芸・書蹟・考古資料とまんべんなく。現光寺の絹本著色最勝曼荼羅は金光明最勝王経に基づく珍しい仏画。法明寺の木造天部立像は11世紀初めごろの作例で、来館者の寄付金による修理。

 名品展 珠玉の仏教美術【絵画】
(12月11日~1月14日)

 終了間際の絵画の展示に滑り込んで、和歌山・総持寺の釈迦三尊像を鑑賞。明治30年12月28日、古社寺保存法に基づく最初の国宝指定資料の一つ。指定に先だつ宮内省臨時全国宝物取調局の監査(明治21年5月18日、於和歌山城脇岡東館、九鬼隆一・岡倉天心・フェノロサら参加)では陳列品中「最も見事の出来」と評価された。当時は掛軸装で、その後額装に改変。ただし額は失われて本紙周辺の裂もなく画絹も傷む。修理必要。

堺市博物館「堺・経典をめぐる文化史」鑑賞記

12月16日
堺市博物館
 企画展 堺・経典をめぐる文化史
(11月17日~12月16日)

 最終日に滑り込み。堺市域の仏教文化を経典を軸にして紹介する。館の調査で見いだされた法道寺の雑阿含経巻第三十六は、奥書部分が切断されているが天平15年(743)5月11日に書写された新出の天平写経(五月十一日経)と判明。金剛峯寺本・東博本と並べて比較展示する。また河内長野市の天野山金剛寺一切経中に含まれる、堺市域の寺院で書写された経典を選びだし、野々井寺、常楽寺、善福寺、華林寺、山井寺、長承寺、念佛寺、大野寺、釈尊寺、向泉寺、栄多寺などを復元しつつ展示。このうち廃絶した行基院山井寺から栂自治会に引き継がれ守られる千手観音立像は平安時代、10世紀の作例で、後補ながら板状の小手を多数取り付けた魅力的な真千手の像。経典奥書から地域史を立ち上げるのはとても効果的な手法。堺出身で鎖国下のチベットに入国した河口慧海も取り上げ、東洋文庫の梵文法華経貝葉写本(11世紀)など貴重な慧海請来経も並ぶ。充実。図録あり(80ページ、1240円)。

國學院大學博物館「國學院大學図書館所蔵那智参詣曼荼羅巻子本の仕立てを探る」「列島の祈り」鑑賞記

12月13日、社会教育実践研究センターの平成30年度博物館学芸員専門講座に登壇のため上京。途中渋谷へ立ち寄り。

國學院大學博物館
 特集展示 國學院大學図書館所蔵那智参詣曼荼羅巻子本の仕立てを探る-東京文化財研究所による光科学的調査の成果報告-
(12月5日~1月14日)

 那智参詣曼荼羅巻子本の東文研による光科学的調査の成果を紹介(同大文学部歴史地理学教室主催)。掛幅装から巻子への変更が、実に細かな調整によって切り貼りしていることが明らかにされており、驚きの連続。切り抜いた画面と画面の貼り合わせ部も精密で、展示されている原本を目を凝らして見ても、ただちに分からない。使用形態の変更時期は、木曳き部分の削除、本願の門・塀消去を重視して参詣曼荼羅本来の機能が変容した段階での改変と捉える。滝の上部を使用しなかったことも大胆と思う。解説シートあり。同調査の報告書として『國學院大學図書館所蔵那智参詣曼荼羅巻子本光学的調査報告書』(2018年2月発行)あり。またこの巻子本の画面の復元については吉田敏弘「那智参詣曼荼羅」(大学院六十周年記念國學院大學影印叢書編集委員会編『起請文と那智参詣曼荼羅』、朝倉書店、2017年3月)で成果が紹介される。

 企画展 列島の祈り-祈年祭・新嘗祭・大嘗祭-
(11月3日~1月14日)

 稲作に関わる国家祭祀である祈年祭・新嘗祭・大嘗祭の歴史的経緯を紹介。令義解(重要文化財、同大図書館蔵)、御田植巫女舞図屏風(館蔵)など。特集展示「記念の法会と神々」を同時開催。展示内容とは一致しないものの、会期途中から『資料で見る大嘗祭』(19ページ、300円)を頒布。金沢文庫・神奈川歴博・国文学研究資料館・名古屋大学大学院人文学研究科付属人類文化遺産テクスト学研究センターとの連携事業「列島の祈り」に基づく展示。

国文学研究資料館 「祈りと救いの中世」、東京国立博物館「8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」」鑑賞記

12月6日、出張の用務の前後に展示鑑賞。

国文学研究資料館
 特別展示 祈りと救いの中世
(10月15日~12月15日)

 表白・願文・縁起・唱導書・講式等と仏画類から、中世における仏事の場で人々を救済に誘った唱導(導師・講師らが行った説法)の魅力とその諸文芸への影響を紹介。最明寺往生要集(重文)、国立歴史民俗博物館江都督納言願文集(重文)・十二巻本表白集、称名寺転法輪鈔(国宝)・言泉集(国宝)、真福寺維摩会記・覚任表白集などなど、ずらり重要資料を集める。仏画では圓福寺観心十界図、金剛院地蔵十王図(清代)と東京都下の作例を選んでいて地域性にも配慮。経典では治承4年(1180)書写の諸家分蔵平基親願経のうち3巻を展示。見返し絵の菩薩と胡蝶の美しさ。図録あり(64ページ、無料)。凸版印刷の開発した高精細画像を閲覧できるモニターも設置(操作はタブレット)。金沢文庫・神奈川歴博・國學院大學博物館・名古屋大学大学院人文学研究科付属人類文化遺産テクスト学研究センターとの連携事業「列島の祈り」に基づく展示。

東京国立博物館
 8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」
(11月27日~12月25日)

 聖徳太子絵伝の高精細画像を自由に大画面で見られるモニター(操作はタブレット)と、原寸大パネル10面を設置。再現パネルと高精細画像の往還で、全体と細部とを鑑賞する。印刷の限界をモニターで補う展示手法。研究資料を鑑賞用資料に汎用化する一つの方向性。国立文化財機構文化財活用センターの企画、NHKエデュケーショナルの製作。

 特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
(10月2日~12月9日)

 再訪。六観音像の光背外した展示空間を確認しておく。図録あり(260ページ、2300円)。

上原美術館「伊豆の平安仏」、河津平安の仏像展示館、願成就院、かんなみほとけの里美術館鑑賞記

12月2日、朝4時に和歌山を飛び出して伊豆半島へ。

上原美術館
 特別展 伊豆の平安仏-半島にひらいた仏教文化-
(9月22日~12月9日)

 リニューアル1周年を記念して、同館が継続して調査を行ってきた伊豆半島の仏像のうち、平安時代に遡る魅力的な作例を集める。伊豆市金龍院千手観音立像は眦を切り上げ顎の張った雄偉な風貌、胴を強く絞った体型など平安時代前期の余風を強く残す。同寺の不動明王坐像も古様を示す10世紀彫像。下田市法雲寺如意輪観音坐像は、多臂像ながら極力一木から木取りし、風貌に沈鬱さをやや残した10世紀の作例。河津町地福院吉祥天立像も、像の大略を一木より彫出した10世紀に遡る作例であるが、薬師堂本尊として安置されてきたことに驚き。吉祥薬師の稀有な一例のよう。河津平安の仏像展示館(南禅寺)からは平安時代前期の不動明王坐像、梵天立像・帝釈天立像、そして仏手など仏像断片がお出まし。これら仏像を通じて伊豆半島の古代における宗教環境が濃密に立ち上がるとともに、各像の修理痕跡や伝来情報から幾層にも重ねられた地域の信仰史が浮かび上がる。同館の担ってきた伊豆地域仏教美術研究の蓄積と信頼によってなし得た優れた展示。図録あり(48ページ、500円)。

河津平安の仏像展示館(南禅寺)
 河津町南禅寺伝来の仏像の展示施設として2013年オープン。本尊薬師如来坐像は重量感に溢れる9世紀彫像。迫力ある風貌の二天立像など9~10世紀の彫像が林立して圧倒される。10世紀の男神立像、女神立像の大きさにも驚く。本堂も開けてくださり虚空蔵菩薩坐像、地蔵菩薩立像拝観。係の方からは榧製のお守りや銀杏まで頂戴する。地域の方々が主体となって施設を作り、また運営されているとのことで、地域に伝来してきた魅力的な仏像を大切に親しみをもって継承する素晴らしい活動事例。

願成就院
 20年ぶりぐらいに訪問。運慶作の文治2年(1186)造像の阿弥陀如来坐像、不動明王二童子立像、毘沙門天立像をご拝観。宝物館では像内納入の銘札と、地蔵菩薩坐像など拝観。本堂本尊もシルエットを遠くに眺めて拝む。

かんなみほとけの里美術館
 函南町桑原地区の桑原薬師堂伝来仏像群の安置施設として2012年オープン。とても洗練された展示空間に、平安時代後期の薬師如来坐像と鎌倉時代の十二神将像、実慶作の阿弥陀三尊像などが林立。仏像群は桑原区から町へ譲渡の上、施設を設置して公開という経緯で、地域の方々の理解と尽力、そして行政との協力によって地域のシンボルたる仏像を継承する注目すべき活動事例。

神奈川県立金沢文庫「顕れた神々」、神奈川県立歴史博物館「鎌倉ゆかりの芸能と儀礼」鑑賞記

11月22日、代休取って東京へ。午前中会議のあと、お役ご免で横浜へ。風邪気味でうとうと居眠りしてたら金沢文庫で降りそこない、金沢八景駅から瀬戸神社と龍華寺を参拝しつつ金沢文庫へ。

神奈川県立金沢文庫
 特別展 顕れた神々-中世の霊場と唱導-
(11月16日~1月14日)

 神々が立ち顕れる場とその姿を、神像・仏画・唱導資料を組み合わせて提示する。称名寺聖教の唱導資料を基層にしつつ、さまざまな個人コレクションから資料を選定し、初公開を含む珍しい資料が集約。中でも伝日光山伝来の銅製男神坐像は、笏を執って右足を踏み下げる束帯男神像で、両袖裏に嘉元3年(1305)銘を有する。輪王寺の男神坐像・女神半跏像と三神像を構成する1体であり大発見。八幡神華鬘(南北朝時代)二面には、薬師寺休ヶ岡八幡宮の国宝八幡三神像のうち中尊像と比売神像の姿を写し、自然景観の中に描く。神像の臨写がいかになされたのかを考える上で注目される資料。ほか、大威徳明王懸仏(鎌倉時代)は新宮・阿須賀神社伝来資料と伝えられ、作風からもほぼ確実。個人コレクションが神道美術の重要な鉱脈であることを痛感するとともに、それらを積極果敢に集め公開することで情報の共有化を図った意欲的な内容。図録あり(112ページ、1800円)。
 なお、金沢文庫・神奈川歴博・国文学研究資料館・國學院大學博物館と、名古屋大学大学院人文学研究科付属人類文化遺産テクスト学研究センターの連携事業で、「列島の祈り」をテーマにして各館でそれぞれ展示が開催中。今までになかった大規模な学術面での連携による新たな展示のあり方。

神奈川県立歴史博物館
 特別展 鎌倉ゆかりの芸能と儀礼
(10月27日~12月9日)

 鎌倉とその周辺で継承され、あるいは記録された芸能に着目して資料を集約する。特に仮面を使用する祭礼を中心に紹介。仮面をかぶる異形のものはいわば神仏であり、それらが顕れる儀礼の場を、古文書・絵画資料・仮面で展示室内に立ち上げる。御霊神社面掛行列の行道面10面は明和5年(1768)、乾漆製。独特の作風であるが、共通する形状の八雲神社行道面7面(天保10年銘)も合わせて並べ(御霊神社面の写しか)、古面からの作風の継承を示唆する。舞楽面からの影響のある鼻長、ゆがみのある祖父面との共通性をもつ火吹男など、今後の中世仮面の系譜の中に位置づける作業は、紀州の面掛行列研究にとっても有益。瀬戸神社の獅子頭(鎌倉時代)、阿弥陀寺の承安4年(1174)銘菩薩面をありがたくじっくり鑑賞。ほか、八菅神社の役行者像(室町時代)など、八菅山修験に関わる資料も集約していて有益。図録あり(176ページ、1500円)。

大賀島寺本尊(千手観音立像)開扉供養大法要参拝記

11月18日
備前長船刀剣博物館
 特別展 こんぴらさんの名刀展
(9月7日~11月25日)

 香川県・金刀比羅宮に所蔵される中世~近代の刀剣を、備前刀を中心に紹介。剣 銘則真(南北朝)、太刀 銘備州長船住重真(南北朝)、刀 銘備前国住長船与三左衛門尉祐定作(大永5年)など。図録なし。

大賀島寺
 大雄山大賀島寺ご本尊(千手観音立像)開扉供養大法要
(11月17日・11月18日)

 秘仏本尊の33年に一度のご開帳。像高124.8㎝、動きのある体軀と脇手の一部、台座蓮肉部を含めてカヤとみられる一木より彫出した、厳しい風貌の9世紀彫像で、本来素地であったもよう。太い脇手、特殊な宝鉢手など唐本図像の直接的な影響も見られる重要作例。2002年に武田和昭氏が初めて確認し、調査成果は翌年浅井和春氏によって「岡山・大賀島寺の本尊千手観音立像とその周辺」(『佛教藝術』267、2003)として報告され、2011年重文指定。今般のご開帳に備え修理も行われた由。地域の方々が集まる祝祭の場に混じらせてもらいありがたく拝観の後、八幡縁起の遺跡地、牛窓の牛窓神社と五香宮を巡り、本蓮寺、弘法寺も拝観。

茨木市立文化財資料館「総持寺」、高槻市立今城塚古代歴史館・高槻市立しろあと歴史館 「藤原鎌足と阿武山古墳」鑑賞記

11月10日、北摂の地域博物館を巡る。

茨木市立文化財資料館
 テーマ展 総持寺
(10月6日~12月3日)

 市制施行70周年と西国三十三所草創1300年の記念展。総持寺の仁和2年(886)の創建期から近世の復興まで歴史を、考古・歴史・美術・民俗・建築の総合的な視点で紹介。西国霊場の札所寺院(第二十二番)にふさわしく近世の縁起絵巻が複数伝わる。展示は従来から知られていた海北友雪筆の一巻と、近年新たに見いだされた享保12年(1727)奥書を持つ豪華な一巻。平安時代後期の等身の二天立像は作風のやや異なる一対。仏画は画中の上部に金泥経文を配して八臂弁才天立像と童子を配した弁才天十五童子像が古様で、中世絵巻にも通ずる山水表現。鎌倉~南北朝時代か。地域の博物館による地域の拠点寺院の丁寧な紹介で、施設と専門職員の役割をしっかり果たす内容。図録あり(30ページ、300円)。

高槻市立今城塚古代歴史館・高槻市立しろあと歴史館
 合同特別展 藤原鎌足と阿武山古墳
(10月6日~12月2日)

 高槻市内、阿武山古墳の被葬者である藤原鎌足をクローズアップして、二つの博物館で紹介。今城塚会場は「第1部 藤原鎌足の足跡をたどる」。想像以上の飛鳥時代の宮都・寺院の展開を総括する内容で、川原寺、山田寺、穴太廃寺、崇福寺ほかの塑像・塼仏が多数並んで見応え十分。しろあと歴史館会場は「第2部 藤原鎌足の姿・三島の大織冠信仰」。談山神社と奈良国立博物館の藤原鎌足像や、地域に残る地福寺藤原鎌足像、粉本類など、大織冠像がずらりと並ぶ稀有な機会。眼の描き方に複数のパターンがあるが、瞋怒相の粉本を知ることができ収穫。鎌足隠居地であり埋葬地である三島地域の大織冠信仰の痕跡も緻密に紹介。6世紀の古墳(将軍塚古墳)である大織冠神社(大織冠古廟岩屋)を鎌足墓として、江戸時代に九条家が祭祀を行っていたことも興味深い歴史、図録あり(104ページ、500円)。2館共通。鑑賞後、高槻市西安威の大織冠神社に参拝。どんな山の中かと思ったら、追手門学院と住宅地の開発で頂部以外は削平。

島根県立古代出雲歴史博物館「神々が集う-神在月と島根の神像彫刻-」、上淀廃寺跡・上淀白鳳の丘展示館、鳥取県立博物館「鳥取画壇の祖 土方稲嶺-明月来タリテ相照ラス-」鑑賞記

11月5日、前日に思い立ち、月曜日に開館している山陰地方の博物館・美術館を巡る往復850キロの日帰り旅。

島根県立古代出雲歴史博物館
 企画展 神々が集う-神在月と島根の神像彫刻-
(10月26日~11月26日)

 陰暦10月を神在月と呼ぶ出雲地方の習俗に合わせて、県内に伝来する200軀を超える神像を一所に集める。第一部は多数の典籍から神在月伝承の形成史を紹介、第二部が神像展。成相寺の23軀の神像群(県指定)はもと鎮守熊野権現(現在は廃絶)安置の諸尊とのことで、熊野信仰との関係性を念頭に置きつつ鑑賞(簡単に答えは出ないけれど)。騎馬神像は古代風の鎧を纏った特殊な姿。圧巻は出雲文化伝承館所蔵、日御先神社宮司小野家旧蔵の171軀の神像群。一部は伝承館で常に展示されているが、その全貌は今回が初公開。展示室内に所狭しと林立するその群像に圧倒される。平安時代から江戸時代にかけて作られた、大きさ、尊格、表現の巧拙、保存状態もさまざまな神像群で、一所安置のものではあり得ない。推測であるが、神仏分離時の神像撤去、あるいは神社合祀による神体の整理に伴って、出雲地方の一定の範囲の神像が集約されたものと見られる。群として神像の文化史をさまざまに物語るもので、この量にこそ重要な意義があるといえる。神像研究の糸口は、まだまだ膨大に残されている。図録は展示の第2部のみ。『島根の神像彫刻』(96ページ、1500円)。必携。

上淀白鳳の丘展示館
 ミニ企画展 上淀廃寺の瓦
(10月13日~11月25日)

 鳥取県淀江町の国史跡上淀廃寺跡より出土した資料及び、金堂の堂内空間を原寸復元したガイダンス施設。同寺の建立は7世紀末(~8世紀初)で、出土塑像片等から本尊像は8世紀半ば~後半に交代した模様。大迫力の丈六三尊像(復元監修山崎隆之氏、松田誠一郎氏)は、未彩色の塑像風で仕上げて効果的。出土した壁画片や塑像片の一部も常設展示され充実。企画展では上淀廃寺跡より表採、発掘された瓦と、上淀廃寺式軒丸瓦(細長い花弁に稜線と隆起がある特殊なもの)の広い分布を紹介。解説資料あり(A4・8ページ)。中原斉『よみがえる金堂壁画 上淀廃寺』(新泉社、1600円)も購入。鑑賞後、近隣の上淀廃寺跡(国史跡)を見学。発掘時の状況を再現するタイプの史跡整備。三塔並立の不思議(ただし北塔は心礎のみで基壇痕跡なし)。

鳥取県立博物館
 鳥取画壇の祖 土方稲嶺-明月来タリテ相照ラス-
(10月6日~11月11日)

 南蘋派や円山派に学んで京や江戸で活躍し、晩年には鳥取藩絵師となった土方稲嶺の画業を紹介。金箔地に濃彩で描く猛虎図屏風、銀箔地に墨のみで岩と波濤を描く荒磯図屏風、絹本に墨画で描いた葡萄栗鼠図等々、さまざまな技法、画風を駆使した幅の広い作品を集約する。お目当ては、平成28年度に和歌山県の興国寺より鳥取県立博物館に譲られ、本年8月には鳥取県保護文化財にも指定された旧興国寺書院壁画、22枚33面。複雑な気持ちではあるが、修理、指定と万全の体制で受け入れられていて、紀州において経てきた歴史も含めて、鳥取の宝として引き継がれることだろう。図録あり(232ページ、1500円)。稲嶺の画業を丁寧に追った概説(執筆山下真由美)とともに、印章・落款と売立目録収載品までを掲載した決定版。

堺市博物館「土佐光吉」、歴史館いずみさの「祈りと願いと信仰」鑑賞記

11月4日。午前で仕事を上がり、堺市博の特別展最終日に滑り込む。

堺市博物館
 特別展 土佐光吉-戦国の世を生きたやまと絵師-
(10月6日~11月4日)

 堺を拠点に活動した戦国時代の土佐派絵師、光吉にクローズアップ。京博源氏物語図屏風、渡辺美術館曽我物語図屏風などの大画面作品から、和泉市久保惣記念美術館源氏物語手鑑(重文)、京博源氏物語図色紙帖(重文)などの小画面作品まで、光吉作品を集める。また雲龍院後円融天皇像(土佐光信筆・重文)、歴博足利義輝像、妙國寺三好実休像、あるいは京都市芸大土佐派絵画資料中の肖像粉本類など多数並べて土佐派の肖像画制作を分析するとともに、光吉工房作品を作風から跡付けて配列した正統派美術史展示。図録あり(88ページ、1970円)。末柄豊・泉万里・安井雅恵・河田昌之・宇野千代子の短い論考5篇収録。

歴史館いずみさの
 特別展 祈りと願いと信仰と
(10月20日~12月23日)

 泉佐野市域における信仰の諸相を、主に近世~近代の資料を活用して紹介。犬鳴山七宝瀧寺の尊勝曼荼羅(南北朝時代)、葛城峯中之宿次第深秘記など同寺の修験関係資料、蟻通神社三十六歌仙図絵馬や正徳2年(1712)の奉納百首和歌など同社の和歌関連資料、市内のだんじりを集約した写真パネルなど。図録なし。平成27年発行の『泉佐野の文化財』(68ページ、1000円)買っておく。

Appendix

プロフィール

大河内智之

Author:大河内智之
「観仏三昧」の主催者です。
和歌山県立博物館の学芸員です。
仏像の研究者だったりもします。

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