奈良国立博物館聖地寧波 日本仏教1300年の源流―すべてはここからやって来た―
(7月18日?8月30日)
祝日だけど、コマ数確保のため大学では講義あり。最終日を終えてほっと一息ついて、山のようなレポートを今だけ忘れて、いそいそと奈良博へ。
海上交通の拠点寧波は、「真実」の仏教を希求する多くの日本の僧侶が海を渡ってたどり着いた場所。再びここから帰った彼らは、寧波の文物を持ち帰り、中国文化へのさらなるあこがれをかき立てた。日本の人々が抱いてきた中国イメージの大きな部分は、寧波の文化でもある。本展の意義はここにある。展示の前提となる調査研究は、奈良博自体の成果の蓄積と、文部科学省特定領域研究「東アジア海域交流と日本伝統文化の形成―寧波を焦点とする学際的創生―」の最新の成果を元とする。現在進行中の寧波研究の最前線を、多くの人々にただちに還元しようとする展覧会であり、博物館の存在意義を明確に主張する。
展示の目玉はいろいろあるが、なんといっても第一室の、清凉寺の釈迦如来立像(国宝)と、浙江省杭州雷峰塔出土文物。生身の釈迦像である清凉寺像と、間近に出会える絶好の機会。堪能。展示は7月30日まで。この釈迦像の対面に、雷峰塔天宮部に納められていた銀阿育王塔が展示。呉越王銭弘俶の造製で、八万四千塔の原型ともいうべき精緻な作。雷峰塔は清凉寺釈迦像が造られた浙江省台州と至近の距離で、時期も重なっており、雷峰塔出土の鏡像は、清凉寺釈迦像体内納入の鏡像と同様、彫りが浅くのんびりとした風情。偶然出会った展覧会ご担当者によれば、釈迦像と阿育王塔の展示位置は、釈迦像への塔の奉納をイメージされているとのこと。
もう一つの目玉は、大徳寺所蔵の五百羅漢図82幅(南宋・重文)、僚本のボストン美術館本2幅の展示。大量のため3期に分けて展示替えだが、圧巻の光景。そして何より、全幅の画像が図録(352頁・2000円)に掲載されたことで、本図の研究と同種の画題の研究はきっと飛躍的に伸びるだろう。科研プロジェクトで得られた銘文情報も図録で公表。
100万人入れる興行的な展覧会があってもいい。しかし入館者数だけが評判になるのでは空しい。本展のような、「我々は何者なのか」を追求し、その成果を万人が共有するための展覧会もなくてはならない。全国に数千館の博物館・美術館が日常の中に溶け込んで存在する成熟した市民社会(日本のこと)では、興行的展覧会と学術的展覧会のどちらもがあって、市民はそれを選択できることが重要なのだと思う。
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いつも貴ブログ及び観仏三昧HPを拝見させていただいている読者です。
「聖地寧波展」先日行って参りましたが
素晴らしい内容で感動しました。
「興行的展覧会と学術的展覧会のどちらもがあって、市民はそれを
選択できることが重要なのだと思う。」の行に共感したので、
コメント入れさせていただきました。
恐縮ですが、TBご承認いただければ幸いです。