大津市歴史博物館・特別展 神仏います近江 日吉の神と祭
(10月8日~11月23日)
大津市歴史博物館・滋賀県立近代美術館・MIHO MUSEUMの3館が、各館の特色を活かしながらテーマ設定し、会期を重ね合わせ、共通の分厚い図録(512ページ!、2400円)を編集して開催。
大津歴博(大津会場)では日吉神を基軸に神像・神祭りの種々相を提示。展示室冒頭では、展示台と壁面を落ち着いた赤色で大胆に彩り、そこにずらりと並び居る神像群と相まって、優れた展示空間を構築する。小槻大社の男神像(平安前期)は弘安4年(12881)銘の宮殿に安置され、伝来状況をも展示で提供していて貴重。地主神社の僧形神像(平安前~中期)は、眼球の膨らみを強調しつつ眼自体は表現しない。全体として雄偉な風貌で、かつ胸前で笏をとる特徴的な姿。古様を多くとどめ、本像単独では制作時期をあげたくなるところ(展示では10~11c)。
同行した子は矢川神社女神像のうち面相表現のないもの(展示番号10-2)に関心をもち、「神様はほんとは透明で、顔がわからないからと違う?」との感想。プリミティブな表現を神観念の原型に近いと捉えれば、依代に目鼻は不要という判断は可能である。またあるいは「畏れ」の感覚も視野に入ってくる。先の地主神社の僧形神像や鉈彫像でも同様の問題があり、重要なテーマ。子はこれを「カオナシ」と名付けた。ナイス。
滋賀県立近代美術館・特別展 神仏います近江 祈りの国、近江の仏像―古代から中世へ―
(9月17日~11月20日)
滋賀近美(瀬田会場)では滋賀県内から、近年の研究成果を踏まえて特徴的な作例を集める。善水寺帝釈天立像と永昌寺地蔵菩薩立像が並んで展示され、風貌、体躯の立体表現、衣紋などの細部処理など、尊格が異なるのに瓜二つの姿を実際に見ることができ、貴重。10世紀善水寺本堂諸尊造像時に同一工房で同時に造像されたもの。また、鎌倉時代前期の仏師経円による作例として仏心寺聖観音立像、金剛輪寺阿弥陀如来坐像と、経円の可能性が極めて高い仏心寺地蔵菩薩立像、常照庵阿弥陀如来坐像の4躯を全て展示。同じ愛荘町内に集中的に残る経円作例の位置づけを考える上で、貴重な機会(金剛輪寺阿弥陀は10/10で展示終了)。金剛輪寺阿弥陀を見ながら、子に結跏趺坐を体験させてみる。福泉寺阿弥陀如来は貞応元年(1222)銘を持つが、定朝様式を色濃く残す堅実な作であり、銘記がなければ平安末~鎌倉初期としてしまうところで、様式論の難しさをつくづく感じる。
MIHO MUSEUM・特別展 神仏います近江 天台仏教への道-永遠の釈迦を求めて-
(9月3日~12月11日)
MIHO MUSEUM(信楽会場)では、釈迦入滅、釈迦誕生の因果、大乗の菩薩と他浄土の仏、仏遍満する宇宙、奈良時代の仏教、法華経と最澄、比叡山の最澄、天台密教の興隆と章立てし、仏教の展開と天台宗という観点で展示を構築。彫刻資料では、善勝寺千手観音立像は近年の年輪年代法による調査で11c初頃の造像の可能性が高まった作例。舎那院薬師如来坐像は、残念ながら展示替えでなし(11/1から再展示)。園城寺不動明王坐像も近年発見された平安初期の作例で、展示にあたって修理され、後補の玉眼に紙を貼って彫眼風にして、「面目」を一新した。分厚い側面観は9cの要素。松禅院菩薩立像も近年見出された比叡山最古の木彫像(9c)。絵画作品も集めるが、会期が長いため展示替えが5期に渡って行われる。5期はちょっと多すぎると個人的には思う。
3会場を通じて、出陳資料中における琵琶湖文化館の寄託品比率はやはり大きい。実態としては3館連携ではなく4館連携であることを強調したい。琵琶湖文化館問題については、施設の廃館が決定し、収蔵資料の行き先について協議中。どのような形であれ「琵琶湖文化館コレクション」はその歴史的経緯や記憶も含めて、未来に引き継がれて欲しい。
<参考:琵琶湖文化館問題の経緯>
琵琶湖文化館、頑張って(2008年1月5日) 琵琶湖文化館の展覧会企画力(2008年1月30日) 琵琶湖文化館休館決定(2008年3月3日) 「休憩」前の琵琶湖文化館(2008年3月10日) 琵琶湖文化館さらに受難(2009年10月11日) 琵琶湖文化館の今後(2010年1月20日) 九州国立博物館「湖の国の名宝―最澄がつないだ近江と太宰府―」(2010年8月30日) これからの琵琶湖文化館(2011年2月9日)
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遠方なので、開催期間中に三館巡れるか分かりませんが、記事を読んでますます楽しみになりました。