観仏三昧的生活のこぼれ話とミュージアムや文化財に関するトピックス。
シンポの各報告について、報告直後に会場からツイートで概要をつぶやきましたので、それを整理して、情報を共有化したいと思います。なお、各報告のまとめはあくまで私(大河内)の視点で行ったものですので、なにとぞご了承ください。なお、シンポに内容は、時期は未定ながら本としてまとめるそうです。科学研究費プロジェクト「誰もが楽しめる博物館を創造する実践的研究」(通称「ユニバーサル・ミュージアム研究会」)は、09年度から各地のミュージアムで研究集会とワークショップを開催してきた。このシンポジウムは本研究会の成果を公開し、ユニバーサル・ミュージアム(誰もが楽しめる博物館)の理論と実践例を提示することを目標としている。
一般にユニバーサル・ミュージアムを具体化するためには、二つの方法論がある。まず、これまで博物館から疎外されてきたマイノリティへの対応を検討すること(「for」=○○への支援)。ついで、それらマイノリティへの単なるサービスという福祉的な発想のみでなく、彼らの知識や経験を積極的に博物館展示に導入すること(「from」=○○からの発信)。ユニバーサル・ミュージアムを創造・開拓する切り口は多様だが、とくに本シンポジウムでは「視覚障害者」を対象として、「for」「from」の両視点の有効性について議論したい。
■セッションI:「ユニバーサル・ミュージアム研究会の衝撃――各館の視覚障害者対応の現状と課題」なぜ資料に触ることに、展示する側が拒否感をもつのかを、歴史的な流れを踏まえて提示。触ることの持つ可能性を命題とし、博物館をよりリッチに!
報告「湯浅八郎と民芸品コレクション――さわって味わう展示の魅力」(国際基督教大学湯浅八郎記念館館長代理 原礼子)ハンズオン展示は来館者増に貢献。青森県美、秋田県美、山内丸山遺跡などでの取り組み紹介。片手ではなく両手でさわると情報増加。
報告「やきもの、アート、コミュニケーション――触って“みる”こと」(滋賀県立陶芸の森主任学芸員 三浦弘子・滋賀県立陶芸の森コーディネーター 宮本ルリ子)icu湯浅八郎記念館のワークショップ。形、重さ、用途、機能、素材感を感じてもらう。「見テ知リソ 知リテナ見ソ」。必要なことを必要な人に必要なだけ。実物にさわらなければ味わえない、ということをあらためて感じた。「触って知りそ、知りてな触りそ」。
報告「人が優しい『市民ミュージアム』――年齢・国籍・障害にこだわらない交流の場として」(美濃加茂市民ミュージアム学芸員 藤村俊)滋賀県立陶芸の森の事業。22年度初めて触れる展示コーナーつくる。好評。結果、他の感覚も心理的に刺激する展示にもつながる。ワークショップを通じて、触ることで、コミュニケーションで、作品から、作者、鑑賞者がつながることの可能性が見えた。
報告「レプリカ展示の意義と限界――“さわる”ことで何がわかるのか」(滋賀県立安土城考古博物館学芸課主任 鈴木康二)美濃加茂市民ミュージアムの事例をもとに、触ることで、モノをとらえる、モノから思いをはせる、モノを介してヒトとつながる。モノ、バ、ヒトによって作り出される関係、それによって生まれるヒトとヒトの関係を、優しさと捉える。
コメント「視覚障害者の博物館利用-私の経験と研究から-」(筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程 半田こづえ)古墳時代の鏡の実物、模鋳品、樹脂製レプリカをさわり比べる実験。本物に勝てない。圧倒的な時間の重み。レプリカの大きな限界。しかし体験すること、感じることに大きな意義。会話などさまざまなサポートもあわせ、歴史を体感できる場の提供のチャンス作りにつながる。
直感を働かせて得たものを後に概念に整理するプロセスに博物館がいかに関われるか。現在は視覚のイニシアチブが強い時代。しかし人間は複合した様々な感覚で活動。博物館での触る深い体験、難しいミッション。だれもが共に考える、共に活かすことが大事。
■セッションII:「視覚と触覚の対話-目が見えない人たちの多様な学習方法」「さわって学ぶ」「さわって楽しむ」「さわって愕く」、「啓発から応用へ」「個人の実験から集団の運動へ」「体験から理論へ」、さわることの教育的効果「や・ゆ・よ」優しく・ゆっくり・洋々と。さわるワークショップから展示へどのようにつなげるか。みんぱくに世界の感触コーナー準備中。
報告「文化、歴史探訪の手がかりとして手でみる絵画の可能性-イタリアの取組に学ぶ」(国立特別支援教育総合研究所部長 大内進)筑波大学附属視覚特別支援学校の取り組み。さわってわかることにつなげる授業。部分だけでなく全体像をいかにわからせるか。博物館には、素材も重さもできるだけ本物に近い触れるレプリカを用意してほしい。
報告「さわれないものを理解するための技法-“さわる絵画”“さわる展示パネル”制作の立場から」(彫刻家 柳澤飛鳥)国立特別支援教育総合研究所の取り組み。イタリア・オメロ美術館等での平面絵画を半立体的に翻案。圧縮、層化、デフォルメ、補助教材。立版古を活用した立体の奥行きイメージの補助。視覚情報の理解に触覚の手がかりを効果的に活用していく試み。
コメント1「触覚でとらえる宇宙-触常者からのアプローチ」(日本ライトハウス情報文化センター展示制作係 小原二三夫)彫刻家。名画のエンボス集作りなど。絵画などをいかに立体的に処理し、成形するかの事例紹介。立体化は何でもできるが、わかりやすいもの、そうでないものがある。資料は選ぶ必要があるのでは。
コメント2「とらえ方と伝え方-見常表現者からのアプローチ」(イラストレーター、歴史復元画家 安芸早穂子)手の役割、「探る手、知る手」「思いを感じる手、伝達する手」「操作する手、作る手」。触察資料がないと説明する人主導になる、見えない人主導でのコミュニケーションも。触れないものに対してどうするか、言葉や他の感覚によるイメージ化。見えない人の持つイメージがある。
講演「梅棹忠夫の博物館経営論を継承・発展するために-国立民族学博物館とJICA横浜海外移住資料館」(国立民族学博物館教授 中牧弘允)視覚に依存しない情報の伝え方にさまざまな発見。モダンアートにおけるインスタレーション、インタラクティブという潮流。総体としての芸術空間、双方向的な表現形態のなかで、従来のカタログ型博物館からの脱却。触れるレプリカの複合的な利用で、一つのものを深く鑑賞するのはどうか。
報告「ニューヨークのミュージアムにおける視覚障害者の学びとエデュケーターの役割」(慶應義塾大学文学部非常勤講師 大高幸)触れる写真による展示の試み。複数の手段を使う学習のユニバーサルデザインを応用。画像をデジタル補正し立体コピーで打ち出し。冊子状で提供。見える人にとっても解釈の幅が広がる。課題は、どれほど複数の手段を用意しても作品そのものではないこと。
報告「『さわる展示』の回顧と展望」(吹田市立博物館学芸員 五月女賢司)博物館の学びは鑑賞に基づく。その前提が認知。ニューヨークのミュージアムの事例。人的インターラクションの組み込み。メットの視覚障害者の鑑賞プログラム、鑑賞後ちぎり絵で表現。作品と自分を想像力でつなぐ。表現する喜び。エデュケーターは茶会の亭主。日本でもその養成を。
報告「子ども向け暗闇体験イベントの教育的効果」(キッズプラザ大阪プランナー 石川梨絵)吹田市立博物館のこれまでの触る展示をめぐる問題意識。実験展示であったが、さわることに限定しただけで、展示が終了したら元に戻る。今年度のさわる展示の取り組みでの新機軸。さわる図録の販売。会場に交流員。さわることの意味を常に問い、学芸員の意識改革が必要。
報告 「ロビー展『仮面の世界へご招待』がもたらしたもの-さわって学ぶ展示の重要性」(和歌山県立博物館学芸員 大河内智之)キッズプラザ大阪の暗闇体験プログラムの紹介。視覚を使わずにさまざま体験し、自らの五感の可能性を発見する。
コメント「ハンズオンから手学問へ-博物館の新たな展示手法を求めて」(平和祈念資料館学芸員 加藤つむぎ)和歌山県博ロビー展「仮面の世界へご招待」の紹介。ハンズオンであればよいのではない。触ることが楽しく、驚きがあって、効果的な資料選定が必要。ユニバーサル・ミュージアムに達成点はないといえるが、だれにとっても自分のために展示が作られていると感じられる展示を目指す必要。情報が届きにくい人へ発信するチャレンジをやめないこと。
総括「博物館情報論から考えるユニバーサル・ミュージアム」(総合研究大学院大学教授 及川昭文)触れる資料、展示について、学芸員や博物館のネットワーク作りが必要。実物資料をさわること、保存と活用を両立しながら、また資料を大事に思う気持ちをもって触ることで、許容点を見つけていくことが必要。
なぜユニバーサル・ミュージアムの展開が遅れているのかについての検討が必要。来年、同じ時期に、各地でイベントやればどうか。続けることが大事。
Author:大河内智之
「観仏三昧」の主催者です。
仏像の研究者です。
奈良大学の教員だったりもします。
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