観仏三昧的生活のこぼれ話とミュージアムや文化財に関するトピックス。
鈴木正崇「湯立神楽の意味と機能-遠山霜月祭の考察-」(『国立歴史民俗博物館研究報告』174、2012・3)「火を介して水をたぎらすとい湯立は、人間の自然への過剰な働きかけであり、世界に亀裂を入れることで、人間と自然のはざまに生じる動態的な現象に注目することに他ならない。延々と続く湯立によって、湯の動き、湯の気配、そして湯の音や匂いに多様な意味を読み取り、真夜中になって禁忌に取り囲まれた面の神霊を多数に連続して登場させることで、独自の世界を幻視するのが遠山霜月祭であった。最後には神霊や仏菩薩、動物植物を含めて全てが元の場所に還る。かくして、人間と自然と神霊は関係性を新たに結び直して相互の信頼を回復し、人間の暮らしは安定して豊かさを取り戻す。
人間の霊魂もやがては自然に帰入する。山川草木全て物言う「いのちの循環」の中に、人間の霊魂も組み込まれていくのかもしれない。かくして、人間も自然の一部であることを自覚し、いのちを共感しあう世界が回復する。遠山霜月祭の中にはこうした普遍的な民俗知が隠されているのではないだろうか。」(265ページ)
Author:大河内智之
「観仏三昧」の主催者です。
仏像の研究者です。
奈良大学の教員だったりもします。
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