「一〇一一年を上限とする一〇二〇年頃までに伐採された用材であるという善勝寺千手観音立像の年輪年代調査の結論は、今までに美術史の立場から行われてきた十世紀後半から十一世紀はじめの過渡期に属するという見解とも矛盾しない。結果、善勝寺千手観音立像の制作時期を、一〇一一年を上限とする一〇二〇年代頃までに絞り込むことができた。」(「三、善勝寺千手観音立像について 考察編」(執筆松岡)、光谷・大河内・児島・佐々木・松岡2008、24頁)
光谷拓美・大河内隆之・児島大輔・佐々木進・松岡久美子「善勝寺本尊 木造千手観音立像の基礎研究」(『栗東歴史民俗博物館紀要』14、2008・3)
年輪年代による伐採年の測定は、論中にも指摘のあるとおり辺材の有無で精度は変化するとはいえ、たとえ上限年代が判明するだけでも考察の上での重要な足場となりうるものと思います。美術史的方法論による研究成果を学際的に活用されうるものとするためには、常に様式論による比較検討の妥当性に目を配り、その精度を高めることが求められます。年輪年代法は、様式論を高次のステージに上げるためのブレイクスルーとして、その有効性は疑いないものと思われます。条件のよいサンプルによって1体の基準作例を新たに手にすることができれば、それだけでも研究が大きく進展することを私たちは知っています。様式論という「効率のよい」研究方法の精度を高めるために、あらゆる手法に目配りしていきたいと思います。
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