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琵琶湖文化館の受難は続く-滋賀県「新生美術館」計画の停滞-

2018年7月25日の滋賀県議会で三日月知事は進めてきた「新生美術館」整備の計画をいったん停止するとの方針を表明しました。
この美術館計画のそもそもの発端は、2008年3月末の滋賀県立琵琶湖文化館の休館問題でした。当ブログでも琵琶湖文化館にエールを送る立場から、その動勢を追いかけてきました。

 ①琵琶湖文化館、頑張って(2008年1月5日)
 ②琵琶湖文化館の展覧会企画力(2008年1月30日)
 ③琵琶湖文化館休館決定(2008年3月3日)
 ④「休憩」前の琵琶湖文化館(2008年3月10日)
 ⑤琵琶湖文化館さらに受難(2009年10月11日)
 ⑥琵琶湖文化館の今後(2010年1月20日)
 ⑦九州国立博物館「湖の国の名宝―最澄がつないだ近江と太宰府―」(2010年8月30日)
 ⑧これからの琵琶湖文化館(2011年2月11日)
 ⑨琵琶湖文化館の機能再生への道筋(2012年4月20日)

でも、最後に発言してから、もう6年たっているんですね。議会における議論、休館、廃止の動きの浮上を経て、滋賀県立近代美術館に新収蔵庫を建てるプランに落ち着き、嘉田前知事から「千年の仏教美術、百年の近現代美術、そして今生まれ出るアール・ブリュット。滋賀に自生した三つの花を、花束にして発信したい」との新生美術館建設の練られたコメントが出され、混乱の中から素晴らしい着地点が示されたと感心し、安心していました。
しかしその後、設計者(SANAA)が決まり、入札を行うも建築費高騰により不調。建設費を47億円に納めるための設計変更案とそれに対する議会の反発、さらなる変更案も不調と迷走し、今回、直前の知事選で再選を果たした知事から見直し案による整備については停止(「一たん立ち止まらせていただく」という表現)という政治判断がなされました。一方、近代美術館の施設の改修と琵琶湖文化館の機能継承が喫緊の課題であるとも述べ、収蔵庫の新築と老朽化した施設の改修により近代美術館としての再オープンを目指すという報道もあります。

現時点における最も根本的な問題は、琵琶湖文化館も近代美術館も休館状態であり、県民をはじめとする多くの利用者が、近江・滋賀のアイデンティティーを如実に示す作品や文化財の数々を鑑賞する機会を逸している(あるいは極めて限定的である)ということに尽きます。文化館にいたっては、休憩して起き上がれないまま、もう10年が経ちます。
ミュージアムは「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を育成する」(教育基本法1章1条)にあたり、「すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高める」(社会教育法1章3条)ため、「国民の教育、学術及び文化の発展に寄与する」(博物館法1章1条)」機関です。例え計画の後退でも、まずは一日も早いミュージアムとしての機能を回復するという判断は、行政としての責任を果たすための施策として、十分に評価できるものと思います。

ミュージアムの宝は、多様で豊富な資料群(コレクション)と、施設固有の使命を果たすために自律的に活動する専門家(専門家集団)としての学芸員です。前者はミュージアムの原動力、後者はミュージアムの推進力です。こうした非常事態にこそ、学芸員の力を信じたい。学芸員がサポートしあい、「新生美術館」の優れた理念を高々と掲げ、地域や市民と密着した活動によりミュージアムの意味と価値を高め、多くの人にとって「私のためのミュージアム」と感じられる場(あるいはつながり)を構築していく中で、再び環境を整備する機運が醸成されるものと思います。

琵琶湖文化館休館問題は、まだ当分の間落着しません。ミュージアムは誰のためにあるのか、どのように維持されるべきなのか、さまざまな課題が提起されています。引き続き、注目していきたいと思います。

※当初タイトルの副題は「滋賀県「新生美術館」の計画凍結」としましたが、「凍結」は知事発言のニュアンスとは異なるようですので、「滋賀県「新生美術館」計画の停滞」に変更しました。
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大河内智之

Author:大河内智之
「観仏三昧」の主催者です。
和歌山県立博物館の学芸員です。
仏像の研究者だったりもします。

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