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鎌倉国宝館「鎌倉国宝館1937-1945」、神奈川県立金沢文庫「西湖憧憬」、東京国立博物館「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」鑑賞記

10月26日、足を棒にして展覧会巡り。

鎌倉国宝館
 開館 90 周年記念 鎌倉国宝館 1937-1945
(10月20日~12月2日)

 日中戦争から太平洋戦争時の国宝館の状況を、戦中の展示資料や疎開資料、公文書、行政文書から伝える。日中戦争中の昭和14年に開催された「元寇展」出陳品として、館蔵の元寇展覧会目録とともに明王院の異国降伏御祈祷記、円覚寺の巻頭下知状(重文)、建長寺蘭渓道隆像(国宝)、極楽寺の釈迦如来坐像・十大弟子立像(重文)など紹介。時局に迎合して戦意高揚の一翼を博物館が担った過去をしっかり胸に刻む。また太平洋戦争時の昭和19年に郊外へ疎開された資料として光明寺當麻曼荼羅縁起絵巻(国宝)、當麻曼荼羅図(重文)、十八羅漢及び道宣律師像(重文)など。戦況がまだ悪化する前の昭和17年に開催された、東京帝室博物館・奈良帝室博物館・恩賜京都博物館・靖国神社遊就館・大阪市立美術館と鎌倉国宝館の6館と文部省の協議会に関する「国宝関係博物館事務協議会」の書類中では、出席した学芸員の復命書で、本土攻撃に備えた対策として国宝館では遠隔地出陳品の返却、疎開の計画、防空壕の設置、八幡宮境内池水の防火利用などを既に計画していることが知られる。先の疎開もこの方針に基づくもの。ほか、庶務綴や庶務日誌も活用して戦時下の動向を伝える。鎌倉国宝館90年の歴史とは、まさしくこれら行政文書によって活写される近現代史であるといえる。図録あり(104ページ、800円)。所収の金子智哉「総論~戦時下の鎌倉国宝館~」は18ページに及ぶ大論文。

神奈川県立金沢文庫
 特別展 西湖憧憬-西湖梅をめぐる禅僧の交流と15世紀の東国文化-
(9月22日~11月11日)

 中世、金沢の内海の風光明媚な景勝は中国・杭州の西湖と重ねられた。北条実時は西湖の白堤・蘇堤に倣って瀬戸堤を作り、称名寺境内には金沢北条氏が西湖から取り寄せたという西湖梅があった。金沢の地に移植された西湖イメージのもと紡がれた禅僧の交流の痕跡を書画で示すとともに、西湖を描いた絵画作品を集約する機会とする。禅僧の交流は中国僧による景勝を愛でた詩を列記する応長元年(1311)東漸寺詩板、建長寺僧玉隠英璵(1432~1524)と万里集九(1428~1507)が着賛した梅渓図(静嘉堂文庫美術館)、建長寺の書記である賢江祥啓筆の瀟湘八景図画帖(白鶴美術館)などから、西湖図は伝雪舟等楊筆西湖図(静嘉堂文庫美術館・前期)、如寄筆西湖図(天寧寺・後期)、欧斎筆西湖図屏風(京都国立博物館・10/23~11/11)、狩野元信筆西湖図屏風(出光美術館・前期)、雲谷等的筆西湖図屏風(瑞泉寺・後期)などなどを多数集める貴重な機会。図録あり(120ページ、2000円)。板倉聖哲・梅沢恵・畑靖紀・須田牧子・髙岸輝の五氏による論考を収載。充実。

東京国立博物館
 特別展 京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ
(10月2日~12月9日)

開創800年を間近に控えた大報恩寺の数々の鎌倉時代彫像の魅力を紹介する。タイトルには入っていなくとも、本展の見どころはなんといっても秘仏本尊、行快作の釈迦如来坐像(重文)の出開帳。その尊容に間近にまみえることのできる希有な機会に、保存状態良好な台座・光背も含めてじっくりと鑑賞。この像とともに安置されていたと想定される快慶晩年の作である十大弟子立像(重文)、貞応3年(1224)肥後定慶作の六観音立像(重文)も含め、それぞれ露出でゆったりと展示して四囲から鑑賞できるようにし(六観音は後期から全て光背を撤去する珍しい試み)、彫刻資料の魅力を存分に伝える国立館らしい鑑賞環境作り。ほか、銅造誕生釈迦仏立像(重文)の原型製作者は行快、地蔵菩薩立像(未指定)は肥後定慶作の可能性が示され、承久2年(1220)の創建から間を置かずに次々造像された慶派仏師の仏像が林立する空間を堪能。昨年同館で開催された運慶展からの継続性があり、好感。図録あり(260ページ、2300円)。図版多数で必携。所収論文の皿井舞「大報恩寺の創建と慶派仏師の競演」始め、コラムも充実。本館彫刻室も連動して鎌倉時代彫像と檀像を展示。
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大河内智之

Author:大河内智之
「観仏三昧」の主催者です。
仏像の研究者です。
奈良大学の教員だったりもします。

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