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奈良県立橿原考古学研究所附属博物館「さわって体感考古学」、水平社博物館「水平社と衡平社-国境を越えた被差別民衆連帯の記録-」鑑賞記

3月18日、奈良大学で卒業証書・学位記授与式に参加。無事博士学位記を拝受。終了後、お勉強のため、橿原考古学研究所附属博物館と水平社博物館に立ち寄る。

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
 特別陳列 さわって体感考古学
(2月4日~3月20日)

 考古遺物の実物・複製等に触ることができる展示。奈良県立盲学校協力で、展示キャプションには点字も添付される。展示と連動した触って読む図録(和歌山県博方式をご採用!)も用意され、キャプションとしても使用。展示資料は縄文土器、弥生土器、土師器、石器の実物のほか、木器レプリカや銅鐸・銅鏡レプリカ、太安万侶墓碑レプリカ、藤ノ木古墳出土馬具の細部文様を3Dプリンターで出力したものなど約30点。ボランティア解説員1名がサポート(+監視)のため展示室に常駐される。展示の実現にはご担当者の相当のご苦労があったと思うが、博物館をあらゆる人に利用してもらうための「ユニバーサル・ミュージアム」の貴い(数少ない)実践であり、敬意を表したい。今回構築した諸機関との協力体制、そしてノウハウ(これ大事)を生かし、今後もぜひ継続して開催してほしい。 

特別陳列 ヤマトの戦士-古墳時代の武器・武具-
(2月4日~3月20日)

 古墳時代の武器・武具(弓・矢・靫・胡箭・槍・鉾・刀・剣・甲・冑・盾)を、出土した実際の武器武具と埴輪から紹介。太刀類は、藤木古墳出土の巨大な飾り太刀(復元品)や、祭祀用と推定される蛇行剣など儀礼用のものが残りやすく、実戦用のものは残りにくいもよう。図録あり(16ページ、300円)。

水平社博物館
 企画展 水平社と衡平社-国境を越えた被差別民衆連帯の記録-
(12月4日~4月9日)

 日本・水平社と韓国・衡平社の「国境を越えた被差別民衆連帯の記録」がユネスコ・世界の記憶(通称世界記憶遺産)に登録されたことを記念して、その登録資料を展示。登録内容は同博物館の紹介に詳しい。常設展示では「人の世に熱あれ、人間に光りあれ」で結ばれる全国水平社創立宣言を味読。何度読んでも心揺さぶられる檄文。水平社設立とその足跡を示す資料群はまだ登録されていないが、まさに世界の記憶にふさわしいと思う(水平社博物館登録推薦ページ)。

根津美術館「高麗仏画」、東京国立博物館「春日大社展」、長浜 KANNON HOUSE鑑賞記

3月10日、締め切り間際の原稿を抱えて東京へ。
根津美術館
 特別展 高麗仏画-香りたつ装飾美-
(3月4日~3月31日)

 泉屋博古館・根津美術館の所蔵品を核として日本伝来の高麗仏画を集める。昨秋の泉屋博古館会場に続く巡回で、会期を短めに設定して展示替えはほぼなし。阿弥陀如来のコーナーに根津美術館所蔵の高麗仏画が6幅並び壮観。この光景が展示計画の源だったのかも。茨城・大高寺観経十六観変相図、埼玉・法恩寺阿弥陀三尊二比丘像、京都・聖澤院帝釈天像、神奈川・円覚寺地蔵菩薩像、東京・浅草寺水月観音像、広島・不動院万五千仏図と、東京会場のみの寺院出陳資料を重点的に鑑賞。万五千仏図は会場に掲示された拡大パネルで細部確認(ありがたい)。高麗時代の仏画の特徴と様式の展開、そしてその魅力を明らかにする美術史展示であるが、天竺により近い唐土より渡ってきた舶載仏画を憧憬し続けた外国文化受容の歴史(前近代だけでなく、近代以降も)展示でもある。宋元明清仏画・朝鮮仏画も含めた展示、どこかでやってほしい。図録あり(208頁、2000円)。

 興福寺中金堂再建記念特別展示 再会-興福寺の梵天・帝釈天-
(1月7日~3月31日)

 元、興福寺東金堂安置の定慶作根津美術館帝釈天立像と、対になる興福寺梵天立像の「再会」展示。帝釈天の後補部分を見極めながら2躯を比較してじっくり鑑賞。高麗仏画展出陳の帝釈天像とも着衣形式を比べる。

びわ湖長浜 KANNON HOUSE
 高月町片山 片山観音堂 十一面観音立像
(1月31日~3月12日)

 初訪問。長浜市内に伝わる観音像1体を、数ヶ月ごとに交代しながら出開帳を行う画期的なコンセプト。片山観音堂十一面観音像は室町時代後期の作例。この時期は比較的造像機会が多く、周辺地域に共通する作風の像がありそう。比較したり分布を把握すると、地域史の一端が見えるだろうと思いつつ鑑賞。仏像の魅力は、表現の洗練だけにあるのではなく、安置されてきた場の歴史を体現しているというところにもあると思う。展示でも地域の風景をともに紹介して、長浜の魅力と、伝えてきた人びとの信仰を伝えている。「国家」の美術史を体現する場である東博の近くに、「地域(民衆)」の美術史を対比的に提示する場が構築されたことは、とても重要(大袈裟ではなく)。

東京国立博物館
 特別展 春日大社展-千年の至宝
(1月17日~3月12日)

 春日大社式年造替を記念した春日大社と春日信仰の名宝展。展示の核は、春日大社古神宝類と、春日曼荼羅、そして春日権現験記絵。中でも春日曼荼羅は鹿曼荼羅も含めて30幅、春日権現験記絵は宮内庁本・春日本・春日一巻本・陽明文庫本・徳川美術館本・紀州本・新宮本・帝室博物館本を集め、特別展とは別に特集「春日権現験記絵模本Ⅲ-写しの諸相-」(1月17日~3月12日)も連動させて開催する充実ぶり。春日権現験記絵は、展示室の各所に単巻で配され画面内容で展示のストーリーをリードする「参考図版」的資料としても活用。彫刻では、春日神造像伝承を持つ円成寺十一面観音立像を選択(おおそれなら、伝・仏師春日作の仏像をどっと…)。ほか春日本地仏として善円作十一面観音立像(奈良博)、文殊菩薩立像(東博)のほか、善円(善慶)作地蔵菩薩立像(薬師寺)など。特に絵画史分野について、春日信仰美術研究の蓄積をふまえた集大成の内容。図録(396ページ、2400円)あり。改めて、南都の地域史を踏まえた奈良博の「おん祭と春日信仰の美術」シリーズの成果は重要だと感じる(奈良博でも「大・春日信仰美術展」見たい)。

 特集 金春家伝来の能面・能装束
(1月31日~3月26日)

 春日大社展に連動して、大和猿楽四座のうち、東博所蔵の金春家伝来能面・能装束をまとめて展示。能面、能装束とも、難解で多様な種類を分かりやすく伝えることに意を尽くして紹介。能面の作者判定の問題や写しの諸相、あるいは科学的調査の成果も盛り込んで、美術史分野における能面研究の底上げを図る近年の同館の研究成果を反映。古様な延命冠者と、「平泉寺/財運/熊太夫作」銘を有する若曲見をじっくり鑑賞。若曲見は完成度高く、銘を見ずに15世紀と判断できる自信なし。勉強々々。図録あり(136ページ、1500
円)。

豊橋市美術博物館「普門寺と国境のほとけ」鑑賞記

2月19日
豊橋市美術博物館
 普門寺と国境のほとけ
(1月21日~2月26日)

 三河・遠江の国境、弓張山地(湖西連峰)に確認される多数の古代・中世の寺院址群のうち、山系の南端に位置し、現在に法灯が継承される普門寺(梧桐岡院・船形寺)の文化財を中心に、古代の山寺から中世の山林寺院への転換の様相を、考古資料・文字資料・美術資料から叙述する。
 普門寺は旧境内の発掘調査により元々堂址(10c)、元堂址(12c)が把握され、久寿3年(1156)銘経筒、平治2年(1160)銘梵鐘(パネル・袋井市教委蔵)、そして永暦2年(1161)僧永意起請木札とその欠損部を補う江戸時代の写し(延宝7年・1679)といった豊富な文字情報から、平安時代後期に古代の山寺から地域の有力者の宗教的な結集核として山林寺院(里山寺院)化を果たしたことが復元されている(上川通夫『日本中世仏教と東アジア世界』、塙書房、2012)。
 展示ではこれら資料とともに、同寺の本尊聖観音立像(10~11c)と、12世紀に造像された半丈六の伝釈迦如来坐像(重文)、阿弥陀如来坐像(重文・パネル)、等身の四天王立像(重文)、不動明王二童子立像(県指定)が並び、これら仏像が、まさに寺のたどった歴史と期を一にして造像されたことを浮かび上がらせる。普門寺僧永意の名が銘記にあらわれる林光寺薬師如来坐像(重文、12c)も並び、転換期における普門寺僧の精力的な活動の足跡も提示する。なお四天王像のうち、構造・作風・邪鬼の違いをそこに見て多聞天像のみ先に単独で造像されたとの評価が示されているが、更なる議論が必要か。ほか彫刻では、普門寺客殿本尊の阿弥陀如来坐像(13c)、財賀寺宝冠阿弥陀如来坐像(県指定、12c)、赤岩寺愛染明王坐像(重文、13c)十輪寺地蔵菩薩立像(13c)と、優れた中世彫像を間近で鑑賞でき有益。
 豊橋市・湖西市の埋蔵文化財調査、愛知県立大学の学術調査、愛知県史編纂事業の成果の集大成であり、豊かな地域史の再発見と共有化を図る意義ある展示。図録(112ページ、1000円)のほか、豊橋市教育委員会『豊橋市埋蔵文化財調査報告書第140集 普門寺旧境内-考古学調査編-』(434ページ、3500円)あり。

普門寺
 展示を見てから現地を訪れ、その地理的環境を実感する。尾根のたわんで船底の形をした船形山麓に、仁王門、本堂、大師堂、弁天社、客殿が並ぶ。山中の旧境内には巨岩が露頭し250以上の平場がある由で、往古の隆盛のようすを心に描く。なお、仁王門そばの十王堂は雲谷村の村堂として管理され、近世の十王像(普門寺に天和2年(1682)の造像木札写あり)が安置されるが、同堂の宮殿形厨子に安置される朽損した僧形坐像は中世の作例のよう。
 普門寺の近隣、石灰石の巨大な塊がにょきっとそびえる立岩神社にも立ち寄り、こうした象徴的な岩塊が露頭する弓張山地が、古代の信仰の場として認識されたこと、そして境界地として位置づけられたことの理由に少し触れた気になる。

京都国立博物館「皇室の御寺 泉涌寺」ほか鑑賞記

京都国立博物館
 特集陳列 皇室の御寺 泉涌寺
(12月13日~2月5日)

 最終日に滑り込み。泉涌寺及び塔頭の文化財を集めて展観する。塔頭来迎院の秘仏、三宝荒神坐像が寺外初公開。鎌倉時代、13世紀前半慶派仏師の有力者の作例。その眷属として伝わる護法神立像5躯(京博寄託)もともに並ぶ。一面四臂、着甲する小島荒神であるが、不思議な形の冕冠を着け、護法神の数も多く、特殊な信仰背景のあったことを思わせる。寛喜2年(1230)に湛海によって請来された観音菩薩坐像(楊貴妃観音像)もお出まし。面長でまなじりが切れ上がる宋仏画同様の表情をみせる面相部では、微細な抑揚を伴った柔らかな肌の質感や、細かく整然と刻まれる髪の毛筋など細部まで丁寧で、単純で観念的な体躯の立体表現とは対照的。異国感溢れる豪華で極めて大きい冠飾が良好に残されていることも含め、東アジア彫刻史研究上、極めて重要な作例と再認識。同寺の別堂に安置される月蓋長者立像を、本来は脇侍であったと判断して、横に並べる。同室では近時快慶作と判明した宝冠阿弥陀如来坐像、東博に所蔵される泉涌寺旧蔵の阿弥陀如来立像、開山俊ジョウ律師坐像、塔頭戒光寺の浄業律師坐像と、優れた鎌倉時代彫刻を堪能。ほか、嘉禄3年(1227)俊ジョウ律師像、嘉定3年道宣律師・元照律師像などの仏画、俊ジョウ筆附法状など書跡、典籍、工芸品などなど。京都の寺社の文化財調査と展示は京博の学術活動の根幹。ナショナルミュージアムであるとともに、地域博物館としての役割を果たされるこうした機会は、本当に有益。図録ないが、『新版古寺巡礼 京都27 泉涌寺』(淡交社、2008年、1600円)に概ね図版あり。

 名品ギャラリー 神像と獅子・狛犬
(12月13日~2月19日)
 特別公開 修理完成記念 鳥取・三佛寺の蔵王権現立像
(1月17日~2月19日)

 初見の神像を堪能。鉄舟寺男神立像は、寺伝では摩多羅神とされる威相の束帯像。鎌倉時代。直立するも材がややねじれて頭が傾く。市比賣神社の女神坐像は腕に乳児を抱く平安後期~鎌倉初期の作例で、神像として他に類例を知らない特殊な姿。乳児ながら頭髪は真ん中分けで長く女性表現のよう。当該時期の乳児彫像としても興味深い作例。三佛寺蔵王権現立像は修理完成後のお披露目。10世紀末~11世紀ごろ。右足を蹴り上げない作例ではあるが、足先を外に向けてやや高さを違えているのは、ほぼ同等の表現かとも感じる。

京都産業大学むすびわざ館ギャラリー
 企画展 仏像修理の現場-美術院国宝修理所・伝統のわざと新しいわざ-
(1月23日~3月11日)

 仏像修理の理念や現場の様子を、東京・浄真寺の九体阿弥陀像の修理についての情報を中心にパネルで紹介し、あわせて実際に使用している鑿や砥石、鋸などの諸道具を展示。ほか東大寺南大門金剛力士像の顔や足の原寸大石膏像、クスノキ・カヤ・ヒノキ材製粗彫り像と木っ端なども。実物資料は京産大所蔵の阿弥陀如来立像(鎌倉時代)を参考出陳。図録なし。

京都文化博物館・京都大学総合博物館「日本の表装」鑑賞記

1月22日、調べもののために京都府立図書館を利用することにし、なんとしても行っておかねばならない京文博・京大博の展示を鑑賞。

京都文化博物館「日本の表装-掛軸の歴史と装い-」(12月17日~2月19日)
京都大学総合博物館「日本の表装-紙と絹の文化を支える-」(1月11日~2月12日)

 表装の歴史とその技術的工夫、芸術的洗練、宗教的機能、伝来史(修復の履歴)のあり方を、京文博と京大博の2会場のそれぞれで特色を打ち出して紹介する、意欲的な展示。
 京都文化博物館では、絵画や文書を飾り荘厳する役割を果たす表装について、その織りなす美のかたちと宗教的機能に着目。描表装(かきびょうそう)の諸相、納入品・霊験仏としての掛軸、祖師や故人ゆかりの裂を用いた表装、贅を凝らした東山表装、茶掛、文人表装、趣向を凝らした工芸品的掛け軸などなど、表装という表象を通じた日本文化史を豊かに、新鮮に叙述する。
 京都大学総合博物館では、絵画や文書を補強することで使用・保管を容易にする表装の機能について、現在の修理における修理理念と使用する材料や補修技術の工夫と、過去の修理にみられる負の要素(膏薬貼り、裏彩色の色抜け、補修絹の本紙からの切断・転用、相剥ぎ)を対比的に示しながら、綿々と続けられてきた史料の整理と修理の歴史の蓄積を、堅実に叙述する。
 両館の展示で共通の図録(168ページ、1944円)あり。共通とはいっても、京文博の展示図録が右開きに111ページ、京大博の展示図録が左開きに56ページで合冊されている体裁で、ナイスアイデア。出陳全資料とともに、掲載される諸論稿も充実しており、表装文化の基礎~応用をカバーしていて有益。発行は京大博のミュージアムショップを運営する企画会社で、恐らく担当者がいろいろ立ち回られて実現したものであろう。展示みられずとも買って支えるべし。

奈良国立博物館「香薬師像仏手」「新たに修理された文化財」「おん祭と春日信仰の美術」鑑賞記

奈良国立博物館
 特別陳列 おん祭と春日信仰の美術-特集 奈良奉行所のかかわり-
(12月10日~1月15日)

 恒例おん祭展。今回は近世のおん祭催行を支えた奈良奉行所との関わりについて注目する。そしてこれも恒例、春日曼荼羅の諸本をずらり。展示番号34番の春日宮曼荼羅(個人蔵)は小幅で褪色があり展示室では埋没するも、生き生きとした筆致(図録には近赤外線写真あり)で景観を描き、立ち姿の本地仏を配した鎌倉時代後期の作例。もと、金峯山寺僧による春日講の本尊。久度神社本春日社寺曼荼羅は、箱の墨書に文明8年(1476)久度郷講衆の銘のある春日講本尊。展示番号7番の春日赤童子像は権大僧都尭懐の所持品を正徳6年(1716)に春日社加持屋へ寄進したもの。信仰の蓄積を可視化することで作品は見え方を変える。展示とは、歴史を可視化すること。図録あり(80頁、1500円)。

 特集展示 新たに修理された文化財
(12月23日~1月15日)

 奈良博館蔵品、寄託品のうち近年修理された文化財について紹介。なんといっても、刺繍釈迦如来説法図(国宝、奈良時代、あるいは唐時代)。修理後、資料を休ませた後、勿体つけずに淡々と、ただちに公開の機会を提供して情報を共有化するスタンスは、とてもありがたい。眞輪院星曼荼羅(鎌倉時代)、瀧上寺八高僧像(南北朝時代)と、なかなか鑑賞の機会の少ない作例を間近に見られる機会としても、ありがたい限り。持ち帰られるちょっとした資料があると、なおありがたかったところ。

 名品展 珠玉の仏たち〈なら仏像館〉 新薬師寺香薬師像の仏手
 第5室金銅仏コーナーに、近時行方が判明し、新薬師寺に奉納された香薬師像の仏手がお出まし。このような形でただちに展示公開の機が設けられるとは思わず、感激。手を取り付ける木製台に経年の手ずれがあり、随分と愛でられていたのだろうか。三度の盗難、破壊、そして流転と、白鳳時代の仏像の小さな掌中に重くつらい歴史を握らせた近代という時代の「業」(信仰から美術へ)についても考える。その業は、現代の文化財盗難にもそのまま地続きである。そうした点で、「業」が生成された場そのものである奈良博に安住の地を得たことも、ふさわしい(皮肉ではない)。美術とは何かという命題を語るための負の遺産としての一面を、見る者に気づかせる存在であってほしい。

目黒区美術館「色の博物誌」鑑賞記

12月16日
目黒区美術館
 色の博物誌-江戸の色材を視る・読む-
(10月22日~12月18日)

 同館が継続して取り組んできた「色の博物誌」展の集大成。江戸時代の国絵図・浮世絵を素材として、そこで用いられる顔料・染料など色材の種類や特性、効果を分析する。国絵図展示は自然科学手法による色材分析とその復元制作をめぐる科研(「地図資料学の構築」研究代表杉本史子)の成果を共有化するもの。浮世絵は作家立原位貫による当初色材を復元した作品を、原資料と並べて効果的に展示。鉱物、染料、膠や胡粉など多数の色材を説明する展示も充実。図録あり(228ページ、2800円)。色材の詳細な解説や、早川泰広「日本絵画における白色顔料」、田辺昌子「浮世絵版画の色」など論稿11篇を掲載し前近代の「色」についてのありがたい入門書の体。必携。

堺市博物館「妙國寺の歴史と名宝を訪ねて」、そして檀像・観音菩薩立像

12月11日
堺市博物館
 企画展 妙國寺の歴史と名宝を訪ねて-堺の寺町再発見-
(11月1日~12月11日)

 戦国武将三好実休が建立した妙國寺所蔵資料を展示。日蓮筆曼荼羅本尊は文永12年(1275)、弘安3年(1280、四条金吾日頼あて)、弘安5年(1282、藤三郎日金あて)の三幅が伝来。開山日珖筆の『己行記』とその紙背文書、三好実休像、永禄5年(1562)三好義長書状、天正20年(1592)豊臣秀吉朱印状など、戦国時代の堺の歴史をうかがう重要資料が多数。図録あり(売り切れ、未入手)。常設展示で館蔵の隋時代の観音菩薩立像(重要文化財)が公開中。百舌鳥赤畑町円通寺伝来。日本に伝わる檀像中最古例で、白檀材製の真檀像。やはり請来品であろう。ウェブサイトには告知がなかったので、うおおラッキー!と、ケースにしがみついて(ウソ)鑑賞。髻根元の冠飾(前面の飾りは並べた宝珠)の存在に改めて注目する。

東京国立博物館「小林斗アン 篆刻の軌跡」「平安の秘仏」鑑賞記

 12月9日、東京文化財研究所で第11回無形民俗文化財研究協議会に登壇。当方は「文化遺産の複製と信仰環境の維持-防犯対策の事例から-」と題して報告。いろいろご質問もあり、文化財盗難問題とそれへの対応について情報を共有化してもらうよい機会をいただく。終了後、翌日早朝から調査があるため懇親会を失礼して帰宅の途につくも、せっかくなのでとなりの東博の夜間開館に滑り込む。

東京国立博物館
 特集 生誕百年記念 小林斗アン 篆刻の軌跡-印の世界と中国書画コレクション-
(11月1日~12月23日)

 『中国篆刻叢刊』全40巻を編纂した篆刻家小林斗アン(今+酉+皿)の印と所蔵した中国書画を一室に集める。展示する斗アンの篆刻の数111顆(前後期で展示替え)、印影・印譜もずらりと並んで壮観。「篆刻」で展示を構築することの難しさを感じるが、印材・印面・印影をパネル等を効果的に用いてできるだけの情報を伝えようとする意図が見え、鑑賞者の便を図っており、勉強になる。図録あり(298ページ、2500円)。

 特別展 平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち-
(9月13日~1月9日)

 9月16日、10月21日に続き、3度目の鑑賞。会期終了間際と思っていたら(当初は12月11日まで)、1月9日まで会期延長とのこと。今後寺外にでることのないであろう平安時代中期を代表する観音像の大作が、首都で多くの人に長く鑑賞の機を得られることはかけがえのないことで、会期延長を寿ぎたい。おそらくは寄託期間に関する状況の変化に対して臨機応変に弾力的な対応をされたものと想像するが、当初計画を変更してでも鑑賞者(及び所蔵者)の利益・便益を最大化させる選択をされた同館及び担当者に敬意を表する。図録あり(100ページ、1800円)。

和歌山大学紀州経済史文化史研究所「道成寺の縁起 伝承と実像」鑑賞記

和歌山大学紀州経済史文化史研究所
 特別展 道成寺の縁起 伝承と実像
(11月8日~12月16日)

 和歌山大学が実施している道成寺の古文書・典籍調査の成果に基づき、道成寺縁起と芸能における道成寺物の広がりと、もう一つの道成寺(建立)縁起である髪長姫(宮子姫)の縁起の成立と展開、そして江戸時代の出開帳の諸相を明らかにして、新たな道成寺史叙述を試みる。文武天皇・紀道明・九海士権現像、紀州道成寺御建立略縁起、道成寺宮子姫伝記、紀道大明神縁起と、近世に整備された建立縁起の聖なる道具立てを示すとともに、その対外的な披露としての出開帳において提示された聖遺物としての「安珍の扇子」「清姫の打敷」「清姫蛇身の角」、そして掛幅形式の道成寺縁起絵(複製)を示すことで、まさにこれら聖俗の接点となる資料群こそが「縁起」であることを実感する。大学博物館は、とんがっていて、刺激的で、学ぶところが多い。図録あり(42ページ、無料)。山路興造「三つの道成寺縁起」など論考や、一部縁起類の全紙が図版収載され有益。

Appendix

プロフィール

大河内智之

Author:大河内智之
「観仏三昧」の主催者です。
和歌山県立博物館の学芸員です。
仏像の研究者だったりもします。

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