6月17日
大阪大谷大学博物館
椿井文書をめぐる人々-拡散する偽文書-
(4月3日~6月19日)
江戸時代後期に偽作され、現代においても各地の地域史叙述に影響を及ぼす事例もある偽文書群「椿井文書」について、作成した椿井政隆とその一族との関わり、偽文書の流通・拡散のあり方を紹介。偽文書中でも最も著名な興福寺官務牒疏と連動して制作されたとみられる金勝山大菩提寺八宗教院四至封疆之絵図や、河州石川郡磯長山寺伽藍全図会など中世成立として偽作された古伽藍絵図や、染めたり汚して時代を出した紙に中世らしくはないやや傾いた書き癖のある複数の筆致で記された系図や寺社縁起類などを紹介。絵図は古いものを後世に写したと画中に記すことで偽作を隠す巧妙さで、空想の古伽藍図が優れたビジュアルイメージにより今なお受容されてしまうことも理解できる。いつか現場で出会う可能性もあるので、いろいろ特徴を目に焼き付けておく。展示内容を詳述した博物館だよりあり(8ページ)。
6月10日
東北歴史博物館
東日本大震災復興祈念 悠久の絆 奈良・東北のみほとけ展
(4月15日~6月11日)
東日本大震災復興を祈念し、南都の寺社の仏教美術が東北で結集。学術協力として奈良国立博物館が参画し、東北と奈良の仏教文化の関わりとつながりを仏教美術を主体にして紹介する意欲的な内容。奈良と東北の奈良〜平安時代前期の仏像がずらりと居並ぶ空間は圧巻で、東北地方を代表する勝常寺薬師三尊像、四天王立像、十一面観音立像、十八夜観世音堂観音菩薩立像、宝積院十一面観音菩薩立像、勝常寺像の風貌に似た吉祥天立像と、優れた出来映えの仏像群に間近にまみえることのできるありがたい機会。新宮寺文殊菩薩五尊像、新宮熊野神社文殊菩薩騎獅像、龍宝寺釈迦如来立像もじっくり鑑賞。一つ一つの名を挙げるのも難しいほどの奈良の名宝の数々が出陳されることも稀有なことであるが、なにより鑑真、叡尊、行基、忍性と仏法求通と衆生救済に生涯をかけた高僧たちの肖像がはるばる来錫したことこそ、本展開催の意義(心の救済)を象徴的に示すもの。図録あり(204ページ、2750円)。巻頭の長岡龍作「悠久の想像の物語-美術が伝える大乗仏教の世界-」は本展構成と造像の背景を詳述、ほか内藤航「会津の仏像-出陳作品を中心に」はじめ充実したコラム多数。
新宮熊野神社
車を走らせ福島県喜多方市の新宮熊野神社を参拝。平安時代末期の長床、中世末~近世初頭ごろの三社殿、宝物館の多数の文化財群を拝観したのち、それぞれ3キロほど離れた同市内の本宮熊野神社、那智熊野神社にも参拝。早くに熊野三山がセットで移植されたとみられる重要な場であることを現地で認識。
5月28日
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
特別展 神宿る島 宗像・沖ノ島と大和
(4月22日~6月18日)
宗像・沖ノ島祭祀の資料群と大和盆地の祭祀やまじないに関する資料とを対比しその共通性を示すことで、沖ノ島の祭祀が大和王権による海上交通祈念の性格を有することを紹介する。宗像大社の杏葉と藤ノ木古墳の杏葉が並び、かつ藤ノ木古墳資料の出来映えがより優れていることなどモノに雄弁に語らせる。同館でこそ実現できる巨視的かつ意欲的な内容。図録あり(88ページ、900円)。
歴史に憩う橿原市博物館
博学連携企画展 これ、おもろ。知らんけど。
(3月25日~6月18日)
同館が引き受けた博物館実習生による展示。考古資料の魅力を幅広く捉えることを目的に、さまざまな入り口を示して資料への興味を喚起する内容。土器に残る焼成不良の黒い煤染みをゴリラに見立てたり、焼成時の赤飯を夜空の星に見立てたりと、自由な発想で遺物を楽しむ。手作り触図を用意して展示のユニバーサルデザインを目指した点も博物館の先端事例の把握に基づくもので好感。図録なし。
5月25日
和歌山県立博物館
特別展 きのくにの小浪華-湯浅ゆかりの文人の書画-
(4月29日~6月18日)
江戸時代、商業都市として栄えた湯浅における文芸活動の足跡を明らかにする初めての機会となる展覧会。漢詩をよくした豪商菊池海荘の肖像や関連資料、海荘が中心となって活動した詩社・古碧吟社の活動を示す資料、馬上清江や平林無法ほか湯浅ゆかりの絵師の作品など書画や典籍を集める。文人画ではほかに柳川星巌、大江霞岳、黄仲祥、上辻木海、野呂松蘆、浜口灌圃など。図録あり(90ページ、1200円)。
5月27日
高野山霊宝館
宗祖弘法大師御誕生1250年大法会記念展 お大師さまから・お大師さまへ 1期
(4月15日~5月28日)
弘法大師生誕1250年を記念して、大師ゆかりの手蹟や唐請来品と御影堂への寄進資料を展観し、あわせて空海伝を絵巻や肖像ほかを活用して紹介。国宝聾瞽指帰、金念珠、四天王独鈷鈴、高野大師行状図画、厨子入倶利伽羅竜剣、宝寿院文殊菩薩像等々。弘法大師像としては善通寺御影、秘剣大師、瑜祇大師、稚児大師、弘法大師及び四社明神像、弁才天十五童子に弘法大師が併せ描かれる作例など豊富な事例を紹介。図録なし。
5月23日
福田美術館・嵯峨嵐山文華館
橋本関雪生誕140周年 KANSETSU-入神の技・非凡の画-
(4月19日~7月3日)
共通の運営体制である両館と白沙村荘橋本関雪記念館の3館合同で開催する関雪の大回顧展。青年期から晩年期まで、さまざまな画風・画題の作品を集約。京都国立近代美術館《失意》、橋本関雪記念館《琵琶行》《猟》《木蘭》、福田美術館《後醍醐》など屏風の大画面作品から、《玄猿》ほか動物を描く小品まで、いずれも優れた画技で破綻なく整うとともに、漢詩を重視して書にも優れ、オールラウンドに才能を発揮した近代期の巨匠であることを、多数の作品により語る構成。図録あり(224ページ、3300円)。村田隆志「紙碑としての橋本関雪論-『橋本関雪先生之碑』を巡って-」をはじめコラム・特論多数掲載された力の入った一書。
松尾大社神像館
同社伝来の平安時代前期三神像ほか神像群21軀を拝観。康治2年(1143)銘男神坐像や笑相老翁の男神坐像など。
中之島香雪美術館
企画展 修理のあとに エトセトラ
(4月8日~5月21日)
香雪美術館が所蔵し、順次修理が施されている文化財について、その修理工程や成果を丁寧に紹介する。上畳本三十六歌仙絵 猿丸太夫、岩佐又兵衛筆堀江物語絵巻、長谷川等伯筆柳橋水車図屏風、一字金輪像、聖徳太子絵伝、薬師如来立像、南無仏太子立像等々さまざまな形態・材質の優品がずらりと並び、それぞれ修理過程の情報を画像を多数用いてパネルで示して、資料に応じた文化財修理のあり方を丁寧に伝える。台帳類や誂えた表装裂など収集者である村山龍平による修理への取り組みも紹介。図録はないが、『書物学』23号(勉誠社、1980円)が「特集 文化財をつなぐひと・もの・わざ-香雪美術館書画コレクションを支える装?修理の世界」と題して作例及び修理内容について特集。
折れた足をひきずりながら展覧会をいくつか巡拝。あれもこれも行きたいけれど…。
5月2日
奈良国立博物館
特別公開 奈良・不退寺本尊聖観音菩薩立像
(3月21日~5月14日)
保存修理が施された不退寺本尊非聖観音菩薩立像について、作風が共通し本来一具であったことが確実な文化庁観音菩薩立像とともに並び立たせて公開する貴重な機会。文化庁像の像内納入品にもと不退寺伝来像であることを示唆する文言がある由。両像の保存状態の違いに思いをはせつつ、同室安置の新薬師寺十一面観音立像とも比較しながらじっくり鑑賞。リーフレットあり(A4、両面)。
5月5日
香川県立ミュージアム
弘法大師生誕1250年記念特別展 空海-史上最強、讃岐に舞い降りた不滅の巨人-
(4月22日~5月21日)
弘法大師生誕1250年を記念し、空海ゆかりの重要資料と四国所在の関連文化財を集めて公開する。金剛峯寺諸尊仏龕(国宝)、仁和寺三十帖冊子(国宝)、京博・奈良博金剛般若経開題残巻(国宝)のほか、與田寺稚児大師像、虎屋秘鍵大師像、覚城院善通寺御影、圓通寺弘法大師像(三尊合行法と関わる図像)、極楽寺日輪大師像など大師像のさまざまなバリエーションを紹介。仏像では井戸寺十一面観音立像、願興寺聖観音坐像、行徳院六字明王立像、與田寺不動明王立像、工芸資料では善通寺錫杖頭、弥谷寺四天王五鈷鈴等々、重要資料多数紹介。図録あり(144ページ、1800円)。
5月9日
龍谷ミュージアム
特別展 真宗と聖徳太子
(4月1日~ 5月28日)
見学実習で再訪。天満定専坊本願寺聖人親鸞伝絵、四天王寺聖徳太子絵伝、勝鬘皇寺聖徳太子絵伝、福田寺聖徳太子勝鬘経講讃像・震旦和朝高僧先徳連坐像など後期展示の資料を確認。図録あり(152ページ、2000円)。
京都国立博物館
特別展 親鸞 生涯と名宝
(3月25日~5月21日)
親鸞聖人生誕850年を記念し真宗十派が連携して宗派の重宝を集約する大規模な記念展。教行信証はじめ聖教類から消息まで多数の親鸞自筆資料を展示室の各所に配置し、また本願寺聖人伝絵や親鸞聖人絵伝をストーリーテラー的に活用して、親鸞の生涯と思想・信仰、教団化及び分派の様相と祖師・派祖崇拝の諸相を紹介する。終章に親鸞の肖像(鏡御影・安城御影・熊皮御影の諸本を細かく展示替え)と名号(西本願寺本・専修寺本・妙源寺本を細かく展示替え)の2点のみを配置する会場レイアウトはよく練られた展示手法。図録あり(344ページ、3000円)。
大学院時代の一つ下の後輩、戸花亜利州君が急逝しました。4月17日に帝塚山大学での講義後に倒れ、47年の短い生涯を閉じられました。
帝塚山大学経済学部から同大学大学院人文科学研究科日本伝統文化専攻課程に進学し、修士論文で取り組んだ薬師寺薬師三尊像についての研究は、「薬師寺金堂薬師如来像台座に表された異形像の意義」(『佛敎藝術』284、2006年)ほかの論文として上梓され、本薬師寺から移坐したとする見解を、平城京新造説が圧倒的であった中で果敢に示されました。院生室で、蟹満寺の釈迦如来坐像などとも比較しながら議論したのを今でも思い出します。
帝塚山大学講師としては、同大学附属博物館での業務のなかで絵馬についても研究し(師の河田貞先生、大学院研究科長でお世話になった岩井宏實先生も絵馬のご著書あり)、城陽市歴史民俗資料館学芸員としての経験から、山城の古代寺院の出土資料を中心に塑像研究で重要な報告を次々に示しているところでした。直近では「平川廃寺尊像復元考 : 薬師寺金堂月光菩薩像の3次元計測データとの比較から」(『帝塚山大学文学部紀要』43、2022年)を上梓し、3D計測した塑像編を組み合わせて復元していくという、最先端の手法による実証的な研究を進めはじめたところでした。奈良大学でも博物館実習や美術史概論、美術史講読など主要な講義を長くご担当されました。
穏やかでシャイな好青年で、帝塚山大学でも奈良大学でも、講義を受けた学生からは、「戸花先生の講義を聴いて仏像が好きになった」という声をたくさん聞きます。苦労を重ねてきて、その花をこれから咲かせていく間際でのご逝去、残念でなりません。
本日が通夜、明日が葬儀ですが、ご家族だけでのお見送りですので、ここに戸花君への哀悼の意を表し、故人を偲ばせていただきます。
戸花亜利州君主要業績(論文のみ)
「薬師寺金堂薬師三尊像の制作年代について」(『帝塚山大学大学院人文科学研究科紀要』3、2002)
「薬師寺金堂薬師如来像台座に表された異形像の意義」(『佛敎藝術』284、2006)
「山田寺講堂薬師三尊像移座について」(『奈良学研究』8、2006)
「大学博物館における展示実習の意義と課題-帝塚山大学博物館実習生による企画展示を通して」(『全博協研究紀要』12、2009)
「薬師寺金堂薬師如来像台座異形像と『金光明経』」(『奈良学研究』11、2009)
「蟹満寺の造営主体について-蟹満寺の研究史を踏まえて」(『日本文化史研究』47、2016)
「高麗寺出土塼仏」(『帝塚山大学考古学研究所研究報告』19、2017)
「平川廃寺本尊と造営氏族に関する一考察-平川廃寺出土の塑像片を中心として」(『帝塚山大学大学院人文科学研究科紀要』18、2018)
「わが国における邪鬼の表現-法隆寺金堂四天王像邪鬼から東大寺戒壇堂四天王像邪鬼への変遷を中心として」(『奈良学研究』21、2019)
「宮井廃寺の尊像構成についての一考察-出土塑像片を中心として」(『日本文化史研究』51、2020)
「平川廃寺出土塑像の集成及び本尊についての一考察」(『帝塚山大学考古学研究所研究報告』22、2020)
「博物館学習教材「どこでも博物館」の開発及び教育効果についての一考察」(『帝塚山大学文学部紀要』42、2021)
「圓證寺不動明王坐像」(『奈良学研究』23、2021)
「宮井廃寺出土塑像について」(『日本文化史研究』52、2021)
「平川廃寺尊像復元考-薬師寺金堂月光菩薩像の3次元計測データとの比較から」(『帝塚山大学文学部紀要』43、2022)
「宮井廃寺出土塑像」(『日本文化史研究』53、2022)
4月5日
龍谷ミュージアム
特別展 真宗と聖徳太子
(4月1日~ 5月28日)
親鸞生誕850年記念に、真宗における聖徳太子信仰の諸相を紹介。真宗では親鸞が六角堂にて聖徳太子の示現を得て専修念仏へと進んだことから聖徳太子を重視する。順照寺和朝太子先徳連坐像(至徳元年・1384)、佛道寺光明本尊(応永5年・1398)、豪攝寺南無仏太子像、頓受寺南無仏太子像、光照寺聖徳太子童形立像、西光寺童形立像(暦応4年・1341)、松岡寺聖徳太子孝養立像、常楽臺存覚像(応安5年・1372)、瑞泉寺聖徳太子絵伝、正雲寺聖徳太子絵伝、)などなど、中世の作例多数。真宗系絵伝や祖師像の多様なバリエーションを一望できるありがたい機会。出陳リストにないが、展示の最後にハーバード大学美術館所蔵の南無仏太子像の像内納入品の精巧な複製を紹介。科研「宗教テクスト文化遺産アーカイブス創成学術共同体による相互理解知の共有」の成果を反映。図録あり(152ページ、2000円)。
3月30日
なら歴史芸術文化村
開村一周年記念展 山辺の道
(3月21日~5月28日)
開村一周年に、同施設が所在する山辺の道に着目。山辺の道が中世の文献では語られず近世から確認され、近代期に観光の面からクローズアップされたことを示しつつ、櫛山古墳、小墓古墳の副葬品・埴輪から、石上神宮禁足地出土太刀、海獣葡萄鏡、平安時代の琵琶残欠、和邇下神社の柿本人麻呂像、内山永久寺跡出土の中世瓦、長岳寺六道絵(複製)、氷室神社大般若経など多様な資料紹介。「レベッカ・ソルター展」(3月21日~4月23日)も開催中。英王立美術院理事長。
桜井市立埋蔵文化財センター
特別企画展 桜井市文化財協会34年の軌跡-協会の発掘調査が残したもの-
(12月7日~3月30日)
最終日滑り込み。今年度で解散となる桜井市文化財協会を振り返る内容。纏向遺跡、上之宮遺跡、上之庄遺跡、安倍寺跡、磐余遺跡群などなど、重要な調査が目白押し。纏向遺跡第149次調査で古墳時代初頭の土坑から見つかった日本最古の木製仮面(常設展示に実物あり)をじっくり鑑賞。図録あり(16ページ、無料)。