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奈良国立博物館「香薬師像仏手」「新たに修理された文化財」「おん祭と春日信仰の美術」鑑賞記

奈良国立博物館
 特別陳列 おん祭と春日信仰の美術-特集 奈良奉行所のかかわり-
(12月10日~1月15日)

 恒例おん祭展。今回は近世のおん祭催行を支えた奈良奉行所との関わりについて注目する。そしてこれも恒例、春日曼荼羅の諸本をずらり。展示番号34番の春日宮曼荼羅(個人蔵)は小幅で褪色があり展示室では埋没するも、生き生きとした筆致(図録には近赤外線写真あり)で景観を描き、立ち姿の本地仏を配した鎌倉時代後期の作例。もと、金峯山寺僧による春日講の本尊。久度神社本春日社寺曼荼羅は、箱の墨書に文明8年(1476)久度郷講衆の銘のある春日講本尊。展示番号7番の春日赤童子像は権大僧都尭懐の所持品を正徳6年(1716)に春日社加持屋へ寄進したもの。信仰の蓄積を可視化することで作品は見え方を変える。展示とは、歴史を可視化すること。図録あり(80頁、1500円)。

 特集展示 新たに修理された文化財
(12月23日~1月15日)

 奈良博館蔵品、寄託品のうち近年修理された文化財について紹介。なんといっても、刺繍釈迦如来説法図(国宝、奈良時代、あるいは唐時代)。修理後、資料を休ませた後、勿体つけずに淡々と、ただちに公開の機会を提供して情報を共有化するスタンスは、とてもありがたい。眞輪院星曼荼羅(鎌倉時代)、瀧上寺八高僧像(南北朝時代)と、なかなか鑑賞の機会の少ない作例を間近に見られる機会としても、ありがたい限り。持ち帰られるちょっとした資料があると、なおありがたかったところ。

 名品展 珠玉の仏たち〈なら仏像館〉 新薬師寺香薬師像の仏手
 第5室金銅仏コーナーに、近時行方が判明し、新薬師寺に奉納された香薬師像の仏手がお出まし。このような形でただちに展示公開の機が設けられるとは思わず、感激。手を取り付ける木製台に経年の手ずれがあり、随分と愛でられていたのだろうか。三度の盗難、破壊、そして流転と、白鳳時代の仏像の小さな掌中に重くつらい歴史を握らせた近代という時代の「業」(信仰から美術へ)についても考える。その業は、現代の文化財盗難にもそのまま地続きである。そうした点で、「業」が生成された場そのものである奈良博に安住の地を得たことも、ふさわしい(皮肉ではない)。美術とは何かという命題を語るための負の遺産としての一面を、見る者に気づかせる存在であってほしい。

目黒区美術館「色の博物誌」鑑賞記

12月16日
目黒区美術館
 色の博物誌-江戸の色材を視る・読む-
(10月22日~12月18日)

 同館が継続して取り組んできた「色の博物誌」展の集大成。江戸時代の国絵図・浮世絵を素材として、そこで用いられる顔料・染料など色材の種類や特性、効果を分析する。国絵図展示は自然科学手法による色材分析とその復元制作をめぐる科研(「地図資料学の構築」研究代表杉本史子)の成果を共有化するもの。浮世絵は作家立原位貫による当初色材を復元した作品を、原資料と並べて効果的に展示。鉱物、染料、膠や胡粉など多数の色材を説明する展示も充実。図録あり(228ページ、2800円)。色材の詳細な解説や、早川泰広「日本絵画における白色顔料」、田辺昌子「浮世絵版画の色」など論稿11篇を掲載し前近代の「色」についてのありがたい入門書の体。必携。

堺市博物館「妙國寺の歴史と名宝を訪ねて」、そして檀像・観音菩薩立像

12月11日
堺市博物館
 企画展 妙國寺の歴史と名宝を訪ねて-堺の寺町再発見-
(11月1日~12月11日)

 戦国武将三好実休が建立した妙國寺所蔵資料を展示。日蓮筆曼荼羅本尊は文永12年(1275)、弘安3年(1280、四条金吾日頼あて)、弘安5年(1282、藤三郎日金あて)の三幅が伝来。開山日珖筆の『己行記』とその紙背文書、三好実休像、永禄5年(1562)三好義長書状、天正20年(1592)豊臣秀吉朱印状など、戦国時代の堺の歴史をうかがう重要資料が多数。図録あり(売り切れ、未入手)。常設展示で館蔵の隋時代の観音菩薩立像(重要文化財)が公開中。百舌鳥赤畑町円通寺伝来。日本に伝わる檀像中最古例で、白檀材製の真檀像。やはり請来品であろう。ウェブサイトには告知がなかったので、うおおラッキー!と、ケースにしがみついて(ウソ)鑑賞。髻根元の冠飾(前面の飾りは並べた宝珠)の存在に改めて注目する。

東京国立博物館「小林斗アン 篆刻の軌跡」「平安の秘仏」鑑賞記

 12月9日、東京文化財研究所で第11回無形民俗文化財研究協議会に登壇。当方は「文化遺産の複製と信仰環境の維持-防犯対策の事例から-」と題して報告。いろいろご質問もあり、文化財盗難問題とそれへの対応について情報を共有化してもらうよい機会をいただく。終了後、翌日早朝から調査があるため懇親会を失礼して帰宅の途につくも、せっかくなのでとなりの東博の夜間開館に滑り込む。

東京国立博物館
 特集 生誕百年記念 小林斗アン 篆刻の軌跡-印の世界と中国書画コレクション-
(11月1日~12月23日)

 『中国篆刻叢刊』全40巻を編纂した篆刻家小林斗アン(今+酉+皿)の印と所蔵した中国書画を一室に集める。展示する斗アンの篆刻の数111顆(前後期で展示替え)、印影・印譜もずらりと並んで壮観。「篆刻」で展示を構築することの難しさを感じるが、印材・印面・印影をパネル等を効果的に用いてできるだけの情報を伝えようとする意図が見え、鑑賞者の便を図っており、勉強になる。図録あり(298ページ、2500円)。

 特別展 平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち-
(9月13日~1月9日)

 9月16日、10月21日に続き、3度目の鑑賞。会期終了間際と思っていたら(当初は12月11日まで)、1月9日まで会期延長とのこと。今後寺外にでることのないであろう平安時代中期を代表する観音像の大作が、首都で多くの人に長く鑑賞の機を得られることはかけがえのないことで、会期延長を寿ぎたい。おそらくは寄託期間に関する状況の変化に対して臨機応変に弾力的な対応をされたものと想像するが、当初計画を変更してでも鑑賞者(及び所蔵者)の利益・便益を最大化させる選択をされた同館及び担当者に敬意を表する。図録あり(100ページ、1800円)。

和歌山大学紀州経済史文化史研究所「道成寺の縁起 伝承と実像」鑑賞記

和歌山大学紀州経済史文化史研究所
 特別展 道成寺の縁起 伝承と実像
(11月8日~12月16日)

 和歌山大学が実施している道成寺の古文書・典籍調査の成果に基づき、道成寺縁起と芸能における道成寺物の広がりと、もう一つの道成寺(建立)縁起である髪長姫(宮子姫)の縁起の成立と展開、そして江戸時代の出開帳の諸相を明らかにして、新たな道成寺史叙述を試みる。文武天皇・紀道明・九海士権現像、紀州道成寺御建立略縁起、道成寺宮子姫伝記、紀道大明神縁起と、近世に整備された建立縁起の聖なる道具立てを示すとともに、その対外的な披露としての出開帳において提示された聖遺物としての「安珍の扇子」「清姫の打敷」「清姫蛇身の角」、そして掛幅形式の道成寺縁起絵(複製)を示すことで、まさにこれら聖俗の接点となる資料群こそが「縁起」であることを実感する。大学博物館は、とんがっていて、刺激的で、学ぶところが多い。図録あり(42ページ、無料)。山路興造「三つの道成寺縁起」など論考や、一部縁起類の全紙が図版収載され有益。

泉屋博古館「高麗仏画」、八幡市立松花堂美術館「石清水八幡宮をめぐる8つのエピソード」鑑賞記

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根津美術館「円山応挙」、神奈川県立金沢文庫「忍性菩薩」鑑賞記

11月22日
根津美術館
 開館75周年記念特別展 円山応挙-「写生」を超えて-
(11月3日~12月18日)

 円山応挙の初期作品、大画面のものを多数含む代表作、写生図帖類を集め、その画風形成の軌跡をたどる。最初の展示室には根津美術館藤花図屏風とともに、圓光寺雨竹風竹図屏風、三井記念美術館雪松図屏風(後期は個人蔵雲龍図屏風、宮内庁三の丸尚蔵館源氏四季図屏風)が並び、最後の展示室に相国寺七難七福図巻3巻が配されていて眼福。各種写生図帖・図巻は5点を集め、1週間ごとに頁替えする由。図録あり(206頁、2000円)。気鋭の論考5篇掲載。応挙研究の最前線をお勉強。

神奈川県立金沢文庫
 生誕800年記念特別展 忍性菩薩-関東興律750年-
(10月28日~12月18日)

 今夏に奈良国立博物館で開催された「忍性」展第一段に引き続き、関東興律をキーワードに、称名寺聖教、極楽寺文書、多田神社文書、金沢文庫文書を核にして忍性の活動の足跡を追う。もちろん仏像からも忍性の行動を追跡するスタンスは徹底。蔵福寺(茨城県阿見町)阿弥陀三尊像に記された建長4年(1252)銘は、忍性が東国下向し常陸三村寺に入った直後の日付けであり、同像の開眼供養に忍性が関与した可能性を指摘する。観音寺(茨城県行方市)の鎌倉時代中期の銅製如意輪観音坐像は、忍性が文応元年(1260)に同寺を中興したとする伝承を実作例によって裏付けるものと評価し、薬王院(茨城県桜川市)の銅製薬師如来坐像は頭部を清凉寺式とする作例で、同寺でも忍性は弘安元年(1278)に宝塔を建立しており、真言律の影響下にあることを物語るとする。極楽寺本尊の清凉寺式釈迦如来立像も、文永4年(1267)の同寺入寺直後の作の可能性が高いと判断。仏像もまた、歴史を再構築するための重要な手掛かりであり、こうした読み解きは大切な作業。ほか、極楽寺の忍性菩薩坐像、興正菩薩叡尊坐像、釈迦如来坐像、唐招提寺東征伝絵巻など。図録あり(96ページ、1500円)。

和歌山市立博物館「城下町和歌山の絵師たち」鑑賞記

和歌山市立博物館
 特別展 城下町和歌山の絵師たち-江戸時代の紀州画壇-
(10月22日~11月27日)

 江戸時代、和歌山と関わりを持って活動した絵師、あるいは絵を描く機会のあった人々を、作品とともに紹介。紀伊狩野家を初めとするお抱え絵師の面々、藩主、文人とその門人、藩士、学者、工人など、その数105人(展示替えあり)。野際蔡春和歌祭図、笹川遊原唐美人図、徳川頼宣宝船図、祇園南海山水図、桑山玉洲花鳥図、愛石花渓深遠図、塩路鶴堂の宮子姫伝記と清姫鐘巻伝記(ともに道成寺蔵)、岡本緑邨南山瑞橘図、崖龍山鍾馗図、木村蒹葭堂名花十二客図、西村中和高野山図などじっくりみながら、近世紀州画壇の多様な展開を一望させてもらえるありがたさを噛みしめる。図録あり(100ページ、1000円)。掲載される画家・人物一覧は今後座右できっと重宝するもの。

福井市立郷土歴史博物館「福井の仏像」、そして鶏足寺・渡岸寺観音堂・小谷寺鑑賞記

11月14日、早朝に出立して、福井市へ。

福井市立郷土歴史博物館
 特別展 福井の仏像-白山を仰ぐ人々と仏たち-
(10月14日~11月23日)

 白山開山1300年を来年に控え、霊峰白山を仰ぐ福井嶺北地域に伝えられた仏像を一堂に集めて紹介する。修理成った滝波町五智如来堂の五智如来坐像のうち中尊大日如来坐像(12世紀)は、肉髻・螺髪を表して智拳印を結ぶ姿(手先を除く腕部は当初材との由)で、着衣の細部形式に混乱があることも含め、特殊な図像に基づくものか。長運寺十一面観音立像(10世紀)は腕部、天衣遊離部を含めた頭体の大略を極力一木より刻出し、頭上面(亡失)を上下2段に配す図像的特徴や、裙裾を浮かせる軽やかな印象など、代用檀像の系譜に連なる新出の重要作例。10世紀も早いころまで遡りそう。大滝町神宮堂の虚空蔵菩薩坐像(9世紀)は、福井を代表する平安時代初期彫像であるが、台座も出陳されたことで華盤より下に中世(平安後期か)の部材を残していることが把握され、信仰の蓄積を体感する。越前町八坂神社の菩薩形坐像(11世紀)は、部材の欠損もあるが、その自然な抑揚表現は、いまだ定型化していない定朝遺風継承期の作風と感じる(定朝様ムズカシイ)。同社の十一面女神坐像(12世紀)ともどもじっくり鑑賞しながら、いつか現地の訪問を心に期す。ほか越前市荒谷町観音堂の聖観音立像(12世紀)、泰澄寺僧形神坐像(9~10世紀)など、日本彫刻史・宗教史・地域史研究の上で重要な情報を提供している、魅力あふれる仏像の数々を堪能する。図録(108ページ、1800円)には、出陳された全作例の正面・側面・背面ほかの図版が掲載され有益。また「神社に祀られる仏像」「仏像が動く」「朽ちかけた仏像を祀る」といった6篇のコラムも、仏像を引き継いできた人々へのリスペクトに溢れて充実の内容。会期中のイベントや広報もアイデア溢れるもので、博物館がその使命を果たしていくための最大の原動力は、やはり熱意ある学芸員であることを実感する。

鶏足寺・渡岸寺観音堂(向源寺)・小谷寺
 福井から長浜まで戻って、仏像巡り。紅葉の鶏足寺では善男善女の団体がバスで次々訪れる中、世代閣の薬師如来立像、木心乾漆の十二神将立像、魚籃観音立像、十社権現像をじっくり拝観。一方、渡岸寺観音堂はひっそりとしていて、国宝十一面観音立像をしばし独り占めする最高の贅沢。小谷城の麓にある小谷寺では本尊の特別開帳中。7世紀の銅製菩薩半跏像で、洗練された出来映えを示す重要作例。框と迎蓮からなる木製台座には文明12年(1480)の墨書がある(同寺パンフレット)ということも貴重な伝来情報。

滋賀県立近代美術館「つながる美・引き継ぐ心-琵琶湖文化館の足跡と新たな美術館-」、大津市歴史博物館「大津の浄土宗寺院 新知恩院と乗念寺」鑑賞記

11月5日、早朝出立して大津市へ。
滋賀県立近代美術館
 つながる美・引き継ぐ心-琵琶湖文化館の足跡と新たな美術館-
(10月8日~11月23日)

 平成32年(2020)に県立近代美術館に引き継がれる予定の琵琶湖文化館収蔵品を通じて、滋賀県の宗教美術・近世美術の精華を示すとともに、琵琶湖文化館(及び学芸員)が果たしてきた資料保存と学術面での大きな貢献を提示する。琵琶湖文化館の休館を巡る動勢については、私自身も2008年からしばらく定点観測を行ったが(「観仏三昧的生活」2012年4月20日記事「琵琶湖文化館の機能再生への道筋」)、本展においては、滋賀県の文化財保存の核として活動してきた文化館の歴史の共有化を図り、新生美術館がその機能を確かに引き継いで資料を未来へとつなげていくことへの決意表明がなされた。展示のあいさつ文に「新たな美術館がこれを確実に受け継ぐ」とあり、これを言い切るための関係者のこれまでのさまざまなご苦労も推し量られる。県民、文化財所蔵者、全国の琵琶湖文化館ファンへの明確なメッセージに接し、少し安心する。
 子連れで鑑賞し、あれこれ説明していてもゆるされる雰囲気であったこともうれしい。アール・ブリュットを一つの柱とする新生美術館においては、多様性への配慮、喜びへの共感、そして施設と来館者、あるいは来館者どうしの寛容性も大切な要素であると思う。人も文化財も居心地のよい新美術館となりますように。図録あり(152ページ、2000円)。

大津市歴史博物館
 大津の浄土宗寺院 新知恩院と乗念寺
(10月15日~11月27日)

 大津市内、新知恩院、乗念寺の浄土宗寺院2か寺の悉皆的な調査に基づき把握された文化財の様々を紹介。展示は各寺院ごとに分け、あたかも新知恩院展と乗念寺展の2本立てという体をとり、図録も同様に、判型を小さくした『大津の浄土宗寺院 新知恩院』(64ページ、700円)、『大津の浄土宗寺院 乗念寺』(64ページ、700円)の2冊を別々に作成。なるほどーと、アイデアに唸る。新知恩院の新出の法然上人立像(鎌倉時代)は画像を忠実に立体化した初期作例、乗念寺の阿弥陀如来立像(鎌倉時代)は仏足文を有し、台座から出た木棒で立ち、歯吹きとしない作例。新資料の蓄積が着実に成されていること、かつその情報の共有化がいち早く成されること、さらにその内容が高度な水準を維持されていること。地域博物館はかくあるべしという理想形。

Appendix

プロフィール

大河内智之

Author:大河内智之
「観仏三昧」の主催者です。
和歌山県立博物館の学芸員です。
仏像の研究者だったりもします。

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